福岡高等裁判所 平成9年(行ケ)2号 判決 1998年3月17日
原告
惣島喜三郎
外四名
原告ら訴訟代理人弁護士
村井正昭
藤尾順司
安部尚志
谷雅文
山田正彦
被告
長崎県選挙管理委員会
右代表者委員長
松藤悟
右訴訟代理人弁護士
木村憲正
右指定代理人
浦稔美
外七名
被告補助参加人
鳥山幸一
外七名
被告補助参加人ら訴訟代理人弁護士
李博盛
右訴訟復代理人弁護士
堀内恭彦
主文
一 平成八年一一月一七日執行の上県町長選挙の選挙の効力に関する審査の申立てにつき、被告が平成九年三月一七日付けでした裁決を取り消す。
二 訴訟費用中、補助参加によって生じた費用は被告補助参加人らの負担とし、その余は被告の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 主文第一項と同旨
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 事案の概要
本件は、平成八年一一月一二日に告示され、同月一七日に執行された上県町(長崎県上県郡)の町長選挙における不在者投票に関し、被告が、同町選挙管理委員会の委員長が公職選挙法四九条一項各号所定の事由(以下「不在者投票事由」という。)の存否について審査義務を尽くしておらず、その管理執行手続の違法が選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとして、右選挙を無効とする旨裁決したのに対し、原告らが、そのような管理執行手続の違法はないと主張して、右裁決の取消しを求めた事案である。
一 争いのない事実等
以下の事実は、当事者間に争いがないか、括弧内掲記の証拠により容易に認められる。
1 平成八年一一月一二日(以下、特に断らない限り、日付けはすべて平成八年を指す。)に上県町の町長選挙が告示され、同月一七日に執行された(乙第八号証。以下、この選挙を「本件選挙」という。)。
2 本件選挙における不在者投票は、選挙期日の告示日である一一月一二日から選挙期日の前日の同月一六日までの五日間、各午前八時三〇分から午後五時までの投票時間で行われ、四〇四件の不在者投票があった。その内訳は次のとおりである。
(一) 上県町選挙管理委員会における不在者投票 三〇二件
(別表1の番号16ないし24及び別表2の合計一〇三件を含む。)
(二) 他市町村選挙管理委員会における不在者投票 三〇件
(三) 不在者投票指定施設における不在者投票 六二件
(四) 郵便による不在者投票 一〇件
なお上県町選挙管理委員会(以下「町選管」という。)における不在者投票の記載をする場所は、同町役場一階相談室及び同町役場仁田支所一階会議室に置かれ、町選管委員長が選任した五名(書記原田義則、事務吏員春日亀隆義、同平山哲正、同斎藤昌敏、同西山岩夫。以下、書記原田義則を「原田書記」といい、その余の事務吏員はいずれも姓のみで表示する。)の不在者投票管理者の職務補助執行者(以下「補助執行者」という。)により、不在者投票に係る投票用紙及び不在者投票用封筒の交付の請求の受付及び宣誓書兼請求書の審査事務が行われた(乙第八号証、第一三号証)。
3 原告惣島喜三郎(以下「惣島」という。)は本件選挙において得票数一八三八票で当選した。落選人廣田貞勝の得票数は一七六八票であった。その余の原告らはいずれも本件選挙の選挙人である。
4 被告補助参加人鳥山幸一及び同小西武治は、一二月二日、右選挙の効力に関し、町選管に異議の申出をしたが、町選管は、同月二七日、右申出を棄却する決定をし、その決定書は、そのころ右両名に交付された(乙第一号証)。
5 この決定に対し、右両名は、平成九年一月一三日、被告に審査の申立てをしたところ、被告は同年三月一七日右町選管の決定を取り消し、本件選挙を無効とする裁決(以下「原裁決」という。)をした。同裁決書は同月一八日右両名に交付され、同裁決は同月二五日に告示された(乙第三号証)。
原裁決の理由の概要は、「町選管における不在者投票三〇二件のうち一〇三件については、不在者投票用紙等の交付請求に応じるにあたって不在者投票事由についての町選管の委員長による審査義務が尽くされておらず、不在者投票の管理執行手続に違法があったといわざるを得ない。そして、本件選挙の開票結果は、当選人惣島の得票数一八三八票、落選人廣田貞勝の得票数一七六八票であって、その差は七〇票であるから、違法な管理執行手続のもとになされた不在者投票が合計一〇三件存在すると認められる以上、かかる違法は選挙の自由公正を害するおそれがあるのみならず、本来不在者投票をできない者が相当多数不在者として投票したことも推認でき、このような者が不在者投票を拒否された場合、投票当日棄権した者もあるかも知れないし、また、不在者投票した場合と選挙の当日に投票した場合とで、同じ候補者に投票するとは限らないなど、その違法が選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に該当することは明らかである。」というものである。原裁決が管理執行手続に違法があるとする一〇三件の不在者投票は、本判決別表1の番号16ないし24及び別表2記載のものである。
二 争点
原告らは、町選管の委員長は本件選挙の不在者投票における不在者投票事由についての審査義務を尽くしており、その管理執行手続に違法はないから、本件選挙を無効とした原裁決は違法であると主張してその取消しを求めており、被告は、本件選挙においては、当選人である原告惣島と落選人である廣田貞勝の得票数の差は、前述のとおり七〇票であるところ、町選管の委員長が不在者投票事由についての審査義務を尽くさず、違法な管理執行手続のもとになされた不在者投票が右を上回る一〇三件存在するから、その違法が選挙の結果に異動を及ぼす虞があり、本件選挙は無効であると主張している。
具体的には、当事者双方は、以下の1ないし3の各争点について、以下のとおり主張している。
1 どのような事由が不在者投票事由に該当するか。
(一) 原告らの主張
(1) 不在者投票制度は、選挙の当日は差し支えがあるが積極的に投票の意思を有する有権者にもできるだけ投票の機会を与え、もってその選挙権の行使を不当に妨げることのないようにしようというものである。殊に、国民の生活様式、仕事や業務の内容が多様化して国民全体が日曜日に一斉に休みを取るという時代ではなくなり、週休二日制が定着して国民の間に余暇を大切にする気風が広まりつつある現代社会にあっては、できるだけこの制度を柔軟に運用することが求められている。したがって、その制度の運営は、不在者投票をしようとする者の意思を尊重し、これができるだけ選挙に反映されるようにして、国民固有の権利である選挙権の自由な行使が最大限保障されるようにしなければならない。したがって、不在者投票事由の解釈はなるべく緩やかにして、できるだけ多くの有権者がその選挙権を行使し得るようにしなければならず、不在者投票事由を厳しく限定することは、選挙権を国民固有の権利と定めた憲法一五条の趣旨に反する。
(2) このような理由からすると、スポーツ、レジャー、レクリエーション活動に参加したり、私的な旅行や家族旅行に行く等、選挙の当日に投票することが困難な事情があるときは、広く不在者投票を認めるべきであり、不在者投票事由を厳格に解して、これらの場合に不在者投票を拒否することは、憲法一三条等で認められた余暇を有意義に過ごす権利をも侵害することになる。
(3) また、上県町は、対馬下島北部に位置し、交通の便も悪く、島内の移動にも長時間を要する地域である。公共交通機関もバスしかなく、その便数も少ないので、とりわけ車の運転をしない老齢者にとっては、島内を移動するにも一日がかりとなる。このような同町の特殊性にかんがみれば、都会では不在者投票事由となり得ないような事由でも、本件選挙においては公職選挙法(以下「法」という。)四九条一項二号の「やむを得ない用務」に該当するものと解釈されることがあるべきである。
(二) 被告の主張
(1) 法は、選挙人が選挙の当日に自ら投票所に行き投票用紙の交付を受け、候補者の氏名を記載して投票することを原則としている(四四条ないし四六条)。そして、不在者投票は、この当日投票の原則に対する例外であるから、不正投票の混入を避け、その濫用を防止し、選挙の公正を確保しようとする趣旨から、法は、その要件を厳格に定めており、法四九条一項各号に規定する不在者投票事由がある場合及び同条二項に該当する場合にのみ許されるものとしている。
(2) とりわけ、法四九条一項二号は、「選挙人がやむを得ない用務又は事故のためその属する投票区のある市町村の区域外に旅行中又は滞在中であるべきこと。」を不在者投票事由として定めている(以下これを「二号事由」という。)が、ここにいう「やむを得ない用務のため旅行中」とは、法令上の義務を課せられた用務による旅行がこれに該当することは明白であるが、私事旅行ないし家族旅行については、その旅行が社会通念に照らして付き合い、儀礼等の理由から社会生活上必要な用事又は当該選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難な用事のための旅行に限られるものというべきである。
(3) 法及びその規定を受けた同法施行令(以下「令」という。)及び同法施行規則(以下「規則」という。)が不在者投票の要件、手続及び関係書類の様式を厳格に定めている趣旨からすれば、不在者投票事由の具体的要件についての前記原告らの主張は、現行法の解釈として成り立つものではない。
2 不在者投票において町選管の委員長が尽くすべき不在者投票事由についての審査義務の程度いかん。
(一) 不在者投票制度は、選挙の当日は差し支えがあるが積極的に投票の意思を有する有権者にもできるだけ投票の機会を与え、もってその選挙権の行使を不当に妨げることのないようにしようというものである。
また、不在者投票用紙等の交付請求及び不在者投票事由の申立ては、その方式に何らの定めもなく、必ずしも書面によることを要せず、口頭によることも差し支えないとされており、不在者投票用紙等の交付請求をするにあたり、宣誓書以外の書面を提出することは法令上要求されていない。しかも、宣誓書の基本的な目的は、不在者投票を求める者に不在者投票事由に関する申告が真正であることを誓わせることにあるが、その中に記載する不在者投票事由についても、個別具体的な事由を記載することは求められておらず、所定の不在者投票事由(単に旅行とか結婚式といった概括的なもの)を○で囲むという極めて簡単な形式になっているにすぎないから、それは不在者投票事由の完全な記載がなされることを予定された書面ではない。
不在者投票においては、選挙人の本人確認さえ確実に行えば不正は防止できるのであり、他方、個人の営業や職務上の秘密、プライバシー、信仰の自由の保護は、日本国憲法で保障された重要な権利であって、不在者投票用紙等の交付請求者に補助執行者が不在理由等を詳細に問いただすことは、右の憲法上の権利を侵害することになるし、選挙人の側にもそれらの事由について説明する義務はないというべきである。
したがって、不在者投票の手続にあたっては、できるだけ投票請求者の良心を尊重し、その自主申告から、選挙の当日に職務ないし業務に従事中であるか、あるいは用務や事故のために投票をすることが困難である事情が一応推測できれば、不在者投票を認めるべきであり、選挙管理委員会において、選挙人の職業や業務、あるいは用務や事故の詳しい内容まで審査しなくても、不在者投票事由の審査義務は尽くしたものというべきである。
(2) また、選挙の執行後、不在者投票事由の有無が問題となった場合にも、投票において不正が行われた疑いがあるなど特別の事情がない限り、できるだけ投票を生かすよう柔軟に判断することが、有権者の選挙権を保障する憲法の趣旨に合致することになる。不在者投票事由が、前述の選挙人の憲法上の権利にかかわるものであることが事後的にでも確認されれば、その管理執行手続は適法と解すべきである。
(3) とりわけ、上県町は、人口四七四三人(有権者三七四一人)の小さな町であるため、不在者投票事務に従事する町職員は選挙人の多くと面識があり、その職業や勤務先について、改めて問わなくても当然に知っている場合も多数あるし、他方、プライバシーに関する事柄については、町選管の側から質問することが困難で、選挙人も回答をためらうという事情がある。
このような同町の特殊性からすれば、補助執行者らが形式的に厳格な審査手続を踏んでいなかったとしても、不在者投票時の選挙人の挙措、言動から状況判断することもやむを得ないものというべく、不在者投票事由が客観的に存在しておれば、補助執行者らの判断を尊重し、審査義務を尽くしたものと解すべきである。
(二) 被告の主張
(1) 不在者投票の制度は、当日投票の原則の例外であるから、不在投票の混入を避け、その濫用を防止し、選挙の公正を確保しようとする趣旨から、法、令及び規則は、その要件、手続及び関係書類の様式を厳格に定めている。このことからすれば、法四九条一項一号所定の不在者投票事由(以下「一号事由」という。)については、その「職務又は業務」の具体的内容を審査確認しなければならないし、二号事由についても、単に行き先、不在期間、不在理由を確認するだけでは足りず、旅行、帰省の目的や、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難である事情等を聴取して、その不在理由が「やむを得ない用務又は事故」に該当するか否かについて審査しなければならないものというべきである。このような不在者投票に係る不在者投票事由の審査義務は、不在者投票の管理執行にあたって、選挙管理委員会の委員長が尽くすべき極めて重要な基本的義務であり、この義務を尽くさなかった場合には、当日投票の原則の例外として厳格な手続を定めた不在者投票の制度の趣旨及び右手続を定めた法四九条一項、令五三条一項に違反するのみならず、選挙の自由公正の原則が害される虞もあることから、選挙無効の原因となり得るものである。
(2) 法四九条一項の規定に基づいて不在者投票をしようとする選挙人が、選挙管理委員会の委員長に対して投票用紙及び不在者投票用紙の交付の請求をする場合には、選挙の当日自ら投票所に行き投票することができない事由を申し立て、かつ、当該申立てが真正であることを誓う宣誓書を合わせて提出しなければならない(令五二条)。宣誓書には、右申立てに係る事由が一見して同法四九条一項の定める不在者投票の事由に該当することが明白な程度に記載されていることが望ましいことはいうまでもないが、宣誓書は選挙人のする申立てが真正であることを誓う点に意味があるのであって、必ずしも宣誓書に右の程度に完全な記載がされることを要求されているものとまでは解されない。したがって、選挙人が提出した宣誓書兼請求書の記載からだけでは申立てに係る事由が不在者投票事由に該当すると判断することができない場合には、選挙人に対し口頭説明を求める必要がある。選挙人から投票用紙等の交付の請求を受けた選挙管理委員会の委員長は、宣誓書の記載と口頭説明の内容を合わせ考慮して、当該申立てに係る不在理由が不在者投票事由に該当するかどうか厳正に審査しなければならず、また、これに該当すると判断した場合に限り、右請求に応じることができるものであって、右のように口頭説明を必要とする場合であるにもかかわらず、その説明を受けることなく受理された不在者投票については、違法とせざるを得ない。
3 本件選挙において、町選管の委員長による不在者投票事由についての審査義務違反により、管理執行手続に違法のある不在者投票があったか。あったとすれば、その件数いかん。
(一) 原告らの主張
(1) 原裁決が違法とした一〇三件の不在者投票のうち、別表1記載のものは一号事由を具備し(ただし、番号24(三宅幸江)については、予備的に二号事由を具備するものと主張する。)、別表2記載の者は二号事由を具備している(ただし、番号4(武田博夫)及び19(神宮増子)については法四九条一項三号所定の事由(以下「三号事由」という。)を具備するものと、番号11(緒方於花)及び12(福島勇)については、予備的に三号事由を具備するものと、番号63(阿比留美智代)については一号事由を具備するものとそれぞれ主張する)。このうち七三件についての不在理由等は、別表1記載のものについては別表3のとおり、別表2に対応するものについては別表4のとおりであり、被告が主張する基準に従ったとしても、それぞれ不在者投票事由を具備しているものというべきである。なお、二号事由については、行政実例も判例も広い範囲でこれを認めている。
なお、別表2の番号12の選挙人(福島勇)は身体障害者であるが、三号事由にいう「身体の障害のため歩行が著しく困難であるべきこと」とは、物理的に歩行が困難である場合だけではなく、身体の障害のため付添人なしで遠方に移動することができないような場合も含むと解すべきところ、同人の不在者投票はこの場合に当たる。
別表2の番号34の選挙人(西山シゲ子)は、信仰上の理由から、高野山参りの日程を変更できなかった。このような者に対し、不在者投票を認めず、信仰上の約束に反して日程の変更を強いることは、憲法が保障する信教の自由に対する侵害に当たる。また、同選挙人は、事前に航空券の手配をしていたものであり、この点からも日程の変更は著しく困難であった。
(2)イ 原裁決が違法とした一〇三件に係る宣誓書兼請求書の内容を見ると、別表1及び2のとおり、いずれも不在者投票事由の存在を推測させる記載がなされており、その不存在をうかがわせるものはないから、その管理執行手続はすべて適法である。
ロ 本件選挙においては、選挙運動が過熱していることや、不在者投票の増加が見込まれることから、町選管では、本庁における補助執行者を従前の二名から三名に増員したほか、審査事務について特に厳格公正を期するように心がけた。補助執行者である原田書記は、他の補助執行者に対し、不在者投票の手引書を交付していたほか、口頭でも、選挙人に旅行等の目的を尋ね、不在期間、行き先も確認するよう指導し、さらに、審査事務の現場で不明な点が出た場合には、原田書記に電話連絡して問い合わせるよう指示していた。このような中で、補助執行者らは、いずれも不在者投票事由について厳格な審査を行い、最低限、不在の事由、期間及び行き先については必ず聴取した。その審査内容等は、別表1記載のものについては別表3のとおり、別表2記載のものについては別表4のとおりである。
なお、別表1の21の阿部節夫は、商談のために投票区域外に出張するため選挙の当日に不在である旨説明したが、補助執行者から商談の具体的内容まで質問を受けたことに対しては、回答を拒絶した。しかし、当該補助執行者は、阿部節夫がガソリンスタンド経営者であることを熟知しており、商談の具体的内容についてまで知らなくても、同人が仕事の関係で出張することは間違いないと判断できた。一般的に、事業者にとって商談の内容は営業上の秘密に関わることが多いので、投票者本人が商談の具体的な内容についての説明を拒否した場合、補助執行者としては、それ以上商談の具体的内容について聞き出すことは困難である。法の趣旨もまた、投票者が営業上の秘密を放棄しない限り不在者投票を認めないものとは到底考えられないから、当該補助執行者が商談の具体的内容について聞き出すことができなかったからといって、審査義務を怠ったということはできない。
別表1の番号22の宮本豊月も、商談の具体的内容について説明を拒んでいるが、商談の内容は営業上の秘密に関わるものであるし、補助執行者は不在者投票事由の審査のために最善を尽くしているから、審査に落ち度はない。
別表2の番号8の小茂田早苗の旅行目的は、次女の縁談についての相談であり、選挙の当日を避けることができなかったから、やむを得ない用務に当たるというべきところ、小茂田早苗は、補助執行者に対し、旅行の目的を告げていない。しかし、縁談は、他人に知られたくない事柄であり、これを秘匿することはプライバシーの権利として当然に許容されるものである。補助執行者は、右の目的を小茂田早苗から聞き出すことはできなかったが、同人の説明とその態度から、「やむを得ない用務」による旅行と判断したものである。
別表2の番号63の阿比留美智代が旅行目的について具体的に説明できなかった理由は別表4記載のとおりであり、このような場合にまで不在理由の説明をしなければならないならば、同人のような仕事に従事する者はおよそ不在者投票ができないこととなるから、旅行目的について説明を求めることは憲法に違反する。
別表2の番号90の福田朋美の帰省の目的は、別表4記載のとおりであったため、補助執行者に対し、単に「帰省」としか申告できなかった。しかし、町職員の中には、福田朋美の家庭事情を知っていた者もおり、補助執行者としては、諸事情を総合して不在者投票をさせたものと考えられる。
(二) 被告の主張
(1) 本件選挙における不在者投票のうち、選挙人の宣誓書兼請求書を必要とする不在者投票は、前記一(争いのない事実等)の2(一)の三〇二件、同(二)の三〇件、同(三)のうち選挙人本人からの請求に係る五件の合計三三七件であり、これらについてはすべて宣誓書が提出されている。このうち、同(一)の町選管における不在者投票の宣誓書兼請求書の中には、不在者投票事由が明白な程度に記載されていると直ちには判断できないものが、別表1及び2のとおり一一八件ある。
(2) 別表1は、町選管の処理簿において、一号事由を具備するものとして選挙人に投票用紙等が交付され、不在者投票がなされたものであるが、そのうち九件について、以下のとおりその管理執行手続に違法がある。
イ 番号16(油野康弘)については、宣誓書兼請求書の行き先欄に「上県町」とのみ記載され、勤務に従事する場所が当該選挙人の所属する投票区の区域外にあることが明らかでない。宣誓書兼請求書の職業(勤務先)欄には「漁協」と記載されており、漁協建物の所在地で勤務に従事するものと推察されないこともないが、職務又は業務に従事する場所が明白な程度に記載されているとはいい難い。補助執行者は、被告に対する審査申立て手続(前記一(争いのない事実等)の5)において、油野康弘から「早朝から漁に出る。」との口頭説明を受けた旨証言するところ、この意味は、選挙の当日の早朝から出漁するということであろうが、そうであるならば、不在期間が一一月一六日から選挙の当日である同月一七日までとする宣誓書兼請求書の記載と一見して矛盾しており、補助執行者において不在者投票事由の確認を行ったとは認められない。油野康弘は、当時、ヨコワ(マグロの稚魚)漁のため山口県沖に行く予定であったにもかかわらず、宣誓書兼請求書の行き先欄に「上県町」と記載したが、補助執行者からこの点について質問はなかったし、また、漁には毎日出るのであるが、宣誓書兼請求書の不在期間を選挙の当日のみとせずその前日からとしたことについて、特に理由はなかったようであるところ、このことについても補助執行者から質問を受けなかった。よって、番号16の不在者投票については、不在者投票事由についての審査義務が尽くされておらず、その管理執行手続に違法がある。
ロ 番号17から22までの六件は、いずれも宣誓書兼請求書の職業(勤務先)欄に記載がなく、かつ、宣誓書兼請求書のその他の記載内容からも選挙人の職業が不明のものである。一号事由は、職務又は業務に従事中であることを不在者投票事由とするものであるから、宣誓書兼請求書の記載から職務又は業務の内容が推察できない場合には、選挙人から口頭による説明を求める必要がある。また、不在者投票用紙等の交付請求を行う者が提出する宣誓書兼請求書は、規則九条、別記第一〇号様式に準じて作成されなければならないが、同様式備考欄に、職業はなるべく詳細に記載することと規定されていることからみても、一号事由に関し、職業(勤務先)欄に記載がないものについて口頭説明を求めず、その内容を審査しないまま不在者投票用紙等の交付請求に応じた場合には、不在者投票の管理執行手続に違法があることとなる。補助執行者らは、宣誓書兼請求書の職業(勤務先)欄に記載がないまま不在者投票に応じたことについて、その問題点を特に意識せず、当該六名の選挙人らに対し、職業について口頭による説明を求め、一号事由の職務又は業務についての審査を行っていない。したがって、右の六件については、不在者投票事由についての審査義務が尽くされておらず、不在者投票の管理執行手続に違法がある。
なお、番号18(豊島若光)、19(久和政仁)及び20(日高幸則)については、当該補助執行者は右不在者投票をした三名の選挙人とは面識がなく、勤務先等について知らなかったところ、この三名は、勤務の内容について申立てをしておらず、補助執行者も、この点について特段質問等をしていない。
ハ 番号23(三宅昭三)及び24(三宅幸江)については、宣誓書兼請求書の職業(勤務先)欄に無職と記載されている。一号事由にいう「職務又は業務」とは、単なる用務とは異なり、同種類の行為を反復継続することがその要素であり、社会通念上趣味、娯楽、一身上の用事等のためにするものは含まれないが、必ずしも職業の意味に限られるものと解する必要はない。このことからすれば、職業が無職と記載された場合であっても、そのことのみで一号事由の具備が否定されるものではないが、右記載から職務又は業務の内容が推察できない以上、当該選挙人に対し、その内容について口頭で説明を求め、審査する必要がある。しかるに、補助執行者は、右選挙人らから、その職務又は業務の内容について明確な説明を受けないまま不在者投票用紙等の交付請求に応じている。よって、右の二件については、不在者投票事由についての審査義務が尽くされておらず、不在者投票の管理執行手続に違法がある。
(3) 別表2は、町選管の処理簿において、二号事由を具備するものとして、選挙人に投票用紙等が交付され、不在者投票がなされたものである。しかるに、以下のとおり、その九四件すべてについて、管理執行手続に違法がある。
イ 番号1については、宣誓書兼請求書の行き先欄に上県町内の住所が記載されているが、二号事由は、当該投票区の属する市町村の区域外に旅行中又は滞在中であることをその要件とするから、この事由には該当しない。また、宣誓書兼請求書の不在理由欄には「見舞い」に○印が付されていることからすれば、法四九条一項のいずれの号にも該当しない。仮に、この不在理由欄の記載が当該選挙人の書き誤りであったとしても、補助執行者においてこれを見過ごしたまま不在者投票用紙等の交付請求に応じたことは、不在者投票事由に関する審査義務を尽くしておらず、不在者投票の管理執行手続に違法があることになる。
ロ 番号2(糸瀬三世子)については、宣誓書兼請求書の行き先欄に記載がないが、補助執行者は、当該選挙人に対して行き先を尋ねていないから、不在者投票事由に関する町選管による審査義務を尽くしておらず、不在者投票の管理執行手続に違法がある。なお、原告らの主張によれば、糸瀬三世子は、福岡の病院へ娘を検査に連れて行く予定であったとのことであるが、このことについては、島内の医師から特段指示されていないし、娘の体調が急に悪くなったわけでもなく、病院の予約もされておらず、実際に診察も受けていないから、補助執行者において不在者投票事由につき聴取を行い、審査を尽くしておれば、その不存在が確認されることもあり得たものである。
ハ 番号3(大石賀一)については、宣誓書兼請求書の不在理由欄には「その他」に○印が付され、仕事と付記されているが、職業(勤務先)欄に記載がない。当該選挙人においては、一号事由に該当するところ誤って二号事由に該当する旨の記載をしたものと推察されるが、前述のように、一号事由において職務又は業務の内容が推察できない場合、選挙人に対し口頭で説明を求める必要があるところ、補助執行者から口頭説明を求めた事実はない。また、職務又は業務性が認められないことからすれば、二号事由の「やむを得ない用務又は事故」に該当するか否かも不明である。よって、不在者投票事由について審査義務が尽くされておらず、不在者投票の管理執行手続に違法がある。
ニ 番号4(武田博夫)については、宣誓書兼請求書の不在理由欄の「その他」に○印が付けられているが、不在理由に関するそれ以上の具体的記載がないところ、補助執行者は、不在者投票事由(三号事由を含む。)及び行き先について、武田博夫から聴取していない。したがって、不在者投票事由について審査事務が尽くされておらず、不在者投票の管理執行手続に違法がある。
ホ 番号5及び6は、宣誓書兼請求書の不在理由欄の「その他」に○印が付けられているが、不在理由に関するそれ以上の具体的記載がないところ、補助執行者は、当該選挙人らが不在理由を明確に述べなかったため、右のような記載をさせたものである。したがって、右の二件については、不在者投票事由について審査義務が尽くされておらず、不在者投票の管理執行手続に違法がある。
ヘ 番号1ないし6を除く八八件は、宣誓書兼請求書の記載の内容から、不在者投票事由として、「旅行」又は「帰省」が申し立てられているものと認められる。このうち単に「旅行」に○印が付けられているだけで他に記載のないもの及び「その他」に○印が付けられ、「旅行」と付記されているものは、二号事由の要件である「やむを得ない用務又は事故」のための旅行であるのか否か明らかでない。また、「旅行」及び「帰省」の二か所又は「帰省」の一か所のみに○印が付けられているものは、親族に会いに行くための旅行と推察されるが、この記載のみでは、これが儀礼等の理由から社会通念上必要な用務のための旅行であるか否か、又は選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難であるなどの事情があるか否かが不明であり、二号事由の要件である「やむを得ない用務又は事故」についての申立てが明白な程度に記載されているとは認められない。番号8及び69には「私用」、同22には「親戚に会いにいくため」、同34には「吉野山高野山参り」と、行き先欄にそれぞれ付記されているが、右と同様の理由により、いずれも二号事由の要件である「やむを得ない用務又は事故」が明白な程度に記載されているとは認められない。補助執行者らにあっては、不在者投票用紙等の交付請求をする選挙人から不在理由として旅行又は帰省と申し立てられた場合、行き先と不在期間についての確認を行うだけで、旅行又は帰省の具体的な目的又は当該選挙の当日以外に日程変更することが著しく困難である等の事情について、選挙人に対し口頭説明を求めることはなかったものである。また、宣誓書兼請求書において、不在理由欄の「旅行」又は「帰省」に○印が付されているもののうち、別表2の番号8、22、34及び69に係るものを除いては、不在理由について何ら付記されておらず、かつ、この何ら付記されていない宣誓書兼請求書の中には、補助執行者が選挙人から不在理由等を聴取して代筆の上作成されたものが少なくとも四件分含まれていることからすれば、そもそも、補助執行者らは、二号事由の要件である「やむを得ない用務又は事故」の趣旨について意識しておらず、そのため、その聴取がなされていないことが明らかである。
なお、番号11(緒方於花)及び12(福島勇)については、三号事由についての審査も行われていない。
番号14(小宮清次)については、仮に小宮清次が一一月一八日に実施される大型特殊自動車免許の試験を受験しに行く予定であったとしても、補助執行者は、その目的を意識した上での審査をしていないし、仮に、右目的を聴取したとしても、試験は日曜日には実施されないにもかかわらず、土曜日である同月一六日に出発しなければならない理由について聴取していないから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたとはいい難い。
番号30(長尾荘一)については、長尾荘一は、補助執行者に対し、福祉大会に出席してそのついでに孫のところに行く旨説明したもののごとくであるが、選挙の当日における不在理由は、福祉大会への出席ではなく、孫に会いにいくことであり、福祉大会の日程によっては、選挙の当日の前に帰ることや投票を済ませてから出発することができるかも知れないにもかかわらず、補助執行者の方から、福祉大会の期日や、選挙の当日までに戻って来ることができない事情について特に質問していない。
番号32(川本サク)については、同人は、選挙の当日に必ずしも新築の家を見たり、子供に会いに行く必要はなかったところ、補助執行者は、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難な事情等の聴取を行っていない。
番号50(阿比留菊男)及び51(阿比留多津代)については、阿比留菊男及び阿比留多津代は、補助執行者に対し、娘のバレーボール大会の応援に行くと話したのみであり、試合の日程等について特段説明していない。そうすると、右両名の申立てのみでは、選挙の当日以外に日程を変更できるか否かが判断できないところ、補助執行者は、この点等について具体的に質問していない。また、阿比留多津代は、阿比留菊男と横に並んで宣誓書兼請求書を記載し、目の前の補助執行者に提出したが、両者の不在期間が異なっていることについても質問を受けていない。
番号60(松村まゆみ)については、松村まゆみは、補助執行者に対して、娘のバレーボールの試合の応援に行くということは述べたものの、当該選挙の当日以外に日程を変更することが可能かどうか等については質問を受けていない。
番号76(前間秀子)については、不在理由は、高校生の息子の学校から通知を受けて長崎へ行くというものであるが、かような用務は月曜日以降であることが容易に推察されるところ、宣誓書兼請求書に記載された不在期間が一一月一六日(土曜日)からとなっているにもかかわらず、日程を変更できない事情について補助執行者が特段質問等をしていない点において、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものである。
(4) 本件選挙は、当初から激戦が予想され、不在者投票においては、惣島、廣田両候補者陣営の選挙運動員らによる見張り行為及び選挙運動員らによる動員の動きがみられ、町選管及び警察署からも、再三、両陣営に対し指導や注意がなされていた。ちなみに、本件選挙における投票者総数は三六三五(投票率97.4パーセント)、不在者投票者数は四〇四(不在者投票率11.1パーセント)であり、過去の平成七年執行町議会議員一般選挙(投票者総数三五六〇、投票率96.3パーセント、不在者投票者数三一五、不在者投票率8.8パーセント)、平成四年執行町長選挙(投票者総数三三四五、投票率88.6パーセント、不在者投票者数一八七、不在者投票率5.6パーセント)、平成三年執行町議会議員一般選挙(投票者総数三六七四、投票率95.8パーセント、不在者投票者数二七二、不在者投票率7.4パーセント)に比べ、かなり多かった。このように、町選管においては、本件選挙に関して、不在者投票が不正に利用されているのではないかとの疑いを持つべき状況下にあったにもかかわらず、補助執行者らに対して、不在者投票事由の要件について内容を聴取の上審査することの必要性及びその方法について研修や具体的指示は何ら行われておらず、補助執行者らの中には、法四九条一項各号のいずれに該当するのか明らかでない者に対し、宣誓書兼請求書の不在理由欄の「その他」に○印を付けさせて不在者投票用紙等の交付請求に応じた者もいたほか、補助執行者らは、不在者投票に応じることについて判断に迷ったり疑義を感じたことはなく、原田書記に特に照会することもなかった。本件選挙では、不在者投票に係る投票用紙等の交付が拒否された例はなく、不在者投票事由の審査は極めてずさんなものであった。また、仁田支所においては、二号事由に該当するか否かが宣誓書兼請求書の記載のみからは明らかでない選挙人に対して、不在者投票事由に関する口頭説明すら求めていない。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(どのような事由が不在者投票事由に該当するか。)について
不在者投票は、法四四条ないし四六条に定める当日投票の原則に対する例外であるが、ややもすれば不正に利用される危険があるため、その濫用を防止し、選挙の公正を確保しようとする趣旨から、法四九条一項各号に規定する不在者投票事由がある場合及び同条二項に該当する場合にのみ許されるものとされている。
不在者投票事由のうち、一号事由は、「選挙人がその属する投票区の区域外において職務又は業務に従事中であるべきこと。」というものであるが、ここにいう「職務又は業務」とは、単なる用務とは異なり、同種類の行為を反復継続することがその要素であり、必ずしも職業の意味に限られるものではないが、趣味、娯楽、一身上の用事等のためにするものは含まれないというべきである。
また、二号事由は、「選挙人がやむを得ない用務又は事故のためその属する投票区のある市町村の区域外に旅行中又は滞在中であるべきこと。」というものであるが、ここにいう「やむを得ない用務のため旅行中」とは、その旅行が儀礼等の理由から社会通念上必要な用務のための旅行であるとか、又は選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難である等の事情が認められる場合(以下「「やむを得ない用務」の要件」という。)に限られるものというべきである。
以上に反する前記原告らの主張は、独自の見解であって、採用することができない。
二 争点2(不在者投票において町選管の委員長が尽くすべき不在者投票事由についての審査義務の程度いかん。)について
令五二条は、法四九条一項の規定に基づいて不在者投票をしようとする選挙人は、選挙管理委員会の委員長に対して投票用紙及び不在者投票用封筒の交付の請求をする場合には、選挙の当日自ら投票所に行き投票することができない事由を申し立て、かつ、当該申立てが真正であることを誓う宣誓書兼請求書を合わせて提出しなければならないものと定めている。不在者投票の制度は、当日投票の原則の例外であるため、法、令及び規則は、不正投票の混入を避けその濫用を防止し選挙の公正を確保しようとする趣旨から、その要件、手続及び関係書類の様式を厳格に定めているのであって、選挙人から投票用紙等の交付の請求を受けた選挙管理委員会の委員長は、宣誓書において、右申立てに係る不在理由が不在者投票事由に該当することが一見して明白な程度に記載されておらず、従前の知識や選挙人の身体状況等を参酌してもこの点が不明の場合には、選挙人に口頭等により補足説明を求め、その内容を合わせ考慮して、当該申立てに係る不在理由が不在者投票事由に該当するかどうかを具体的かつ厳正に審査しなければならず、また、これに該当すると判断した場合に限り、右請求に応じることができるものというべきである。
このような不在者投票事由についての審査義務は、不在者投票の管理執行にあたって、選挙管理委員会の委員長が尽くすべき極めて重要な基本的義務であり、この審査義務を尽くすことなく不在者投票をさせた場合には、その管理執行手続に違法があることとなり、このことが選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合には、当該選挙は無効となるものである。
以上に反する原告らの主張は、独自の見解であって採用できない。
三 争点3(本件選挙において、町選管の委員長による不在者投票事由についての審査義務違反により、管理執行手続に違法のある不在者投票があったか。あったとすれば、その件数いかん。)について
1 別表1関係
(一) 番号16について
乙第一〇号証の一六の一、第二〇号証、証人油野康弘、同斎藤昌敏の各証言によれば、油野康弘(番号16)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一七日まで」、行き先欄には「長崎県上県郡上県町」、職業(勤務先)欄には「漁協」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「1」(「投票区域外で仕事等に従事中のため」の項。以下同じ。)のうち「勤務」に○印が付されていること、同人は漁業に従事する者であるが、当時はヨコワがよく獲れる時期で、毎日のように出漁していたこと、ヨコワ漁の場合は、山口県沖まで魚群を追いかけて行くこともあり、同月一七日ころは漁に出ていて帰って来られないだろうと思い、不在者投票用紙等の交付を請求したこと、補助執行者斎藤は、油野康弘が漁業を営んでいることは知っていたこと、補助執行者斎藤及び同西山は、油野康弘から、不在理由として、選挙の当日は漁に行くので投票には間に合わないだろうからと説明を受けたこと、実際にも、油野康弘は同月一七日にはヨコワ漁に出て山口県沖まで行き、日没後に帰ってきたこと、宣誓書兼請求書の行き先欄の記載は、住所を記載する場所と勘違いしたことによる誤記であり、職業(勤務先)欄に「漁協」とそれぞれ記載されているのは、漁協の組合員であるためそのように記載したことによるものであることが認められる。
右認定の事実に照らすと、油野康弘は、選挙の当日には、投票区の区域外において職務に従事中であるべきことになり、同人の不在者投票は一号事由を具備するものというべきところ、補助執行者としても、油野康弘の宣誓書兼請求書の記載及び口頭説明により、右事由を認識して不在者投票をさせたこととなるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(二) 番号17について
乙第一〇号証の一七の一によれば、中山静子(番号17)は一一月一五日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一七日」、行き先欄には「長崎県上県郡上対馬町」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「1」のうち「勤務」に○印が付されていること、職業(勤務先)欄は空欄であることが認められる。
同人については、宣誓書兼請求書において、不在理由として「勤務」と申告されているものの、その職業(勤務先)欄に記載がなく、かつ、その他の記載内容からも職業が不明であるため、これのみでは、果たして一号事由が真実存在するのか否か具体的に認識判断することができない。しかるに、補助執行者において中山静子から職業について口頭による説明を求めたとか、従前から同人の職業について知っていたということを認めるに足りる証拠は全くない。
そうすると、補助執行者としては、不在者投票事由について審査しないまま漫然と不在者投票用紙等の交付請求に応じたものと推認せざるを得ない。したがって、町選管の委員長は、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったこととなり、右不在者投票についての管理執行手続に違法があることとなる(なお、乙第一〇号証の一七の一及び二によれば、同人の投票所入場券の生年月日欄には昭和二三年六月二四日と記載されているにもかかわらず、宣誓書兼請求書の生年月日欄には「昭和四三年六月二四日」と記載されていることが認められることからすれば、果たして不在者投票時には本人確認も厳格になされたのか疑問の残るところである。)。
(三) 番号18ないし20について
甲第一一号証の一ないし三、乙第一〇号証の一八ないし二〇、証人春日亀隆義の証言によれば、豊島若光(番号18)、久和政仁(同19)及び日高幸則(同20)は一一月一六日に不在者投票をしたこと、右三名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「投票当日のみ」に○印が付され、行き先欄には「長崎県下県郡厳原豆酸」(ただし、久和政仁については「長崎厳原豆酸」、日高幸則については「長崎県下兼郡厳原町豆酸」)と記載され、不在理由欄には「1」のうち「勤務」に○印が付されていること、右三名はいずれも有限会社ライフ工業所属の建設作業員であるが、当時厳原町立豆酸中学校新築工事に従事しており、一一月一七日も作業に従事する必要があったこと、補助執行者春日亀は、揃って来所した右三名から、一一月一七日は朝早くから豆酸の現場に行かなければならない旨の説明を受けたこと、同人の宣誓書兼請求書の職業(勤務先)欄はいずれも空白であるが、当時、三名とも作業服を着ており、一見して右三名が建設業関係者であることが分かったことが認められる。
かような建設現場は、通常、早朝から夕刻までかかるものであるから、右認定の事実に照らすと、豊島若光、久和政仁及び日高幸則は、選挙の当日には投票区の区域外において職務に従事中であるべきことになり、同人らの不在者投票はいずれも一号事由を具備することとなるところ、補助執行者としても、右三名の宣誓書兼請求書の記載及び口頭説明等により、右事由を認識して不在者投票をさせたこととなるから、本件不在者投票において不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(四) 番号21について
乙第一〇号証の二一、第二〇号証、証人阿部節夫、同春日亀隆義の各証言によれば、阿部節夫(番号21)は一一月一五日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月二〇日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「1」の「出張」に○印が付されていたこと、当時、同人はガソリンスタンドの経営とプロパンガスの販売を営んでいたところ、一一月一七日は福岡市でプロパンガスの商談が入ったため、右の期間出張することとなったこと、補助執行者春日亀は、阿部節夫とはかなり前から面識があったところ、同人から、商談で福岡市に出張するとの説明を受けたこと、商談の具体的内容についても質問したが、阿部節夫から、それは言う必要はないと回答を拒絶されたこと、同人は、同月一七日は、商談相手が厳原に来たため、実際には出張しなかったことが認められる。
右認定の事実に照らすと、阿部節夫は、選挙の当日には、投票区の区域外において職務に従事中であるべきことになり、同人の不在者投票は一号事由を具備するものというべきところ、補助執行者としても、阿部節夫の宣誓書兼請求書の記載及び口頭説明等により、右事由を認識して不在者投票をさせたこととなるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。なお、一号事由は、投票区の区域外において従事中であるべき職務又は業務について、それがやむを得ないものであることは要件としていないことに照らせば、補助執行者としては、不在者投票事由の審査に当たり、選挙人が真実商談のために投票区域外にあるべきものと判断できれば、その具体的内容についてまで明らかにさせる必要はないものというべきである。
したがって、右不在者投票について町選管の管理執行手続に違法はない。
(五) 番号22について
乙第一〇号証の二二、証人宮本豊月、同斎藤昌敏、同西山岩夫の各証言によれば、宮本豊月(番号22)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から一一月二三日まで」、行き先欄には「横浜市青葉区アザミノ」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「1」の「商用」に○印が付されていること、同人は町会議員であり、ガソリンスタンドを経営しているところ、同月一四日か一五日に東京で製薬会社と劇物販売の商談をし、その後横浜市青葉区あざみ野の甥宅に宿泊し、続いて千葉県木更津市の弟宅を訪問する予定を立てていたこと、補助執行者斎藤及び同西山は、宮本豊月から、ガソリンスタンド関係の商用である旨の説明を受け、斎藤において、どこで何をするのか、同月一七日には戻って来られないのか等について質問した(なお、同月一七日には戻って来られないのかという質問に対しては、明日中には戻って来られないと回答されたことが推認される。)が、商用の具体的内容については回答が得られなかったこと、斎藤は宮本豊月の右職業を知っていたことが認められる。
右認定の事実に照らすと、宮本豊月は、同月一四日ないし一五日には、投票区の区域外において職務に従事する予定であったが、選挙の当日においてはその機会を利用した私事旅行中であるべきことになり、同人の不在者投票は一号事由を具備するものとはいえず、不在者投票事由を具備するとしても、やむを得ない用務のため上県町外に旅行中であるべきことという二号事由に該当することがあり得るにすぎないこととなる。しかし、補助執行者としては、宮本豊月の宣誓書兼請求書の記載及び口頭説明により、同月一七日においては商用という一号事由を具備するものと判断して不在者投票をさせたこととなるところ、右認定の事実関係によれば、補助執行者において右のように判断したことには無理からぬものがあり、右のような審査方法をもって、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。なお、前記(四)と同様、補助執行者において、商用の具体的内容について明らかにさせなかったことは、右判断を左右するものではない。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(六) 番号23について
乙一〇号証の二三、証人三宅昭三、同春日亀隆義の各証言によれば、三宅昭三(番号23)は一一月一五日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「投票日のみ」、行き先欄には「下県郡厳原町厳原」、不在理由欄には「商用」と、職業(勤務先)欄には「無職」とそれぞれ記載されていること、同人は、杉、檜、松を植栽して管理している上県町佐護所在の山林の売買の件で、一一月一七日に買主が福岡から来ることとなったので、厳原町所在の対馬空港まで朝早く迎えに行った後、山林を案内し、帰りも空港まで送ることとなったこと、山林は広さが三〇〇町あり、案内には丸一日かかることが見込まれたこと、補助執行者春日亀は、三宅昭三に対し、いつ、どこに、何をしに行くか質問し、同人から右のとおり自己所有の山林の取引相手が来島し、現地を案内する予定である旨の回答を得たことが認められる。
原告らは、三宅昭三の不在者投票は一号事由を具備すると主張する。しかし、同人は不動産業を経営する者ではなく、右山林売買の件も、自己が植林して管理している山林がたまたま売買の対象となったにすぎないものと認められるから、反復継続性を有せず、一号事由の「職務又は業務」に該当しない。
もっとも、右不在理由は、「やむを得ない用務」の要件に該当するといえるものの、右認定の事実に照らすと、その用務の場所の大部分は、当該投票区のある市町村の区域内である上県町佐護ということになるから、同人の不在者投票は二号事由も具備するものともいえない。
そして、そのような事情であるのに、補助執行者において漫然と不在者投票をさせたのは、不在者投票事由についての審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ない(なお、仮に、補助執行者が、右山林の所在について具体的に認識していなかったとしても、これが上県町内である可能性は容易に認識し得たはずであるから、この点について何ら質問等することなく不在者投票用紙等の交付請求に応じたことは、やはり審査義務に違反がある。)。
したがって、町選管の委員長によるその管理執行手続には違法があることになる。
(七) 番号24について
乙一〇号証の二四、証人三宅昭三、同三宅幸江、同春日亀隆義の各証言によれば、三宅幸江が夫の三宅昭三とともに一一月一五日に不在者投票をしたこと、三宅幸江の宣誓書兼請求書には三宅昭三と同じ記載があること、当時、三宅昭三は腰のヘルニアの手術をして足が少し不自由である上、腎臓及び高血圧の持病もあって、人工透析を受けていたため、三宅幸江が三宅昭三による右(六)の山林の案内に同行することとなったこと、補助執行者春日亀は、三宅昭三から右(六)のとおりの説明を受けた場において、同席していた三宅幸江から、自分が三宅昭三に付き添いで行くとの説明を受けたことが認められる。
しかるに、右(六)のとおり三宅昭三に不在者投票事由の具備が認められない以上、同人の付き添いで一一月一七日に投票できないとする三宅幸江の不在者投票も、一号事由はもとより、二号事由も具備するものではない。したがって、そのような事情であるのに、補助執行者において漫然と同人に不在者投票をさせたのは、不在者投票事由についての審査義務を尽くさなかったものというべきである。
したがって、町選管の委員長によるその管理執行手続には違法がある。
(八) まとめ
そうすると、別表1関係では、三件の不在者投票について、管理執行手続に違法があることとなる。
2 別表2関係
(一) 番号2について
乙第一一号証の二、証人糸瀬三世子の証言によれば、糸瀬三世子(番号2)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から一一月一七日まで」、行き先欄は空白で、不在理由欄には「2」(「やむを得ない用事で上県町外に旅行中又は滞在中のため」の項。以下同じ。)の「その他」に○印が付され、「病院」と付記されていること、同人は、娘が検診で気管に問題があると指摘されたため、福岡市所在のこども病院で診察を受けさせるため、同市に行くこととしていたこと、特に病院を予約していたわけではないが、建設業を営む夫が、選挙運動期間中は仕事がないので、右のような日程にしたこと、補助執行者は、糸瀬三世子から、子供を病院に連れて行くとの説明を受けたこと、一七日に戻って来ることが可能かどうか等の質問は特にしなかったことが認められる。
右認定の事実に照らすと、糸瀬三世子が子供を右の日程で福岡市の病院に連れて行くことは、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難な事情があるものとして、二号事由に該当するというべきである。そして、補助執行者は、糸瀬三世子に対し、右のような日程にした理由について質問しておらず、同人からも特に説明したとは認められないけれども、子供の健康に問題があることが疑われる場合、一日も早く大きな病院で診察を受けさせたいと考えるのはもっともなことであり、上県町という離島内の地域に居住する者が、受診のために右の程度の期間福岡市に行くことには無理からぬものがあるということは、補助執行者において特段説明を受けなくても容易に認識することができるというべきである。
したがって、補助執行者としては、主として糸瀬三世子の口頭説明により、右事由を認識して不在者投票をさせたこととなり、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができるから、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(二) 番号3について
乙第一一号証の三、証人斎藤昌敏の証言によれば、大石賀一(番号3)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一三日から一二月六日まで」、行き先には「下県郡厳原町宮谷」、不在理由欄には「仕事」とそれぞれ記載されていること、補助執行者斎藤は大石賀一とは面識があるところ、同人は精神薄弱者で、授産施設「あゆみ園」で働いており、斎藤としては、公共的な施設(行き先欄記載の地に複数所在する。)に行って仕事をするものと理解したことが認められる。
原告らは、大石賀一の不在者投票事由について二号事由を主張するが、右認定の事実に照らすと、同人は、選挙の当日には、投票区の区域外において職務に従事中であるべきことになり、同人の不在者投票は一号事由を具備するものということができる。そして、不在者投票事由の審査に当たって、その職務の具体的内容についてまで明らかにさせる必要が必ずしもないことは、前記1の(四)で判示したとおりであるし、右認定に照らすと、大石賀一から口頭で的確に職務の内容や場所等を聴取することには困難を伴ったものと考えられるので、補助執行者としては、真実仕事で行き先欄記載の場所に行くものと認識できれば足りるものというべきである。したがって、補助執行者としては、大石賀一の宣誓書兼請求書の記載及び従前の知識により、右事由を認識して不在者投票をさせたこととなるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(三) 番号4について
甲第一号証、乙第一一号証の四、証人武田俊晃、同春日亀隆義の各証言によれば、武田博夫(番号4)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「投票当日のみ」に○が付され、行き先欄には「上県郡上対馬町」と記載され、不在理由欄には「2」の「その他」に○印が付されていること、武田博夫は、脳梗塞で倒れて以来体が不自由になり、二級の身体障害者手帳の交付を受けていて、自分では投票所に行くことができなかったこと、同人の妹である武田若子は、母親の看病をしているため、武田博夫を投票に連れて行きにくかったこと、武田若子の夫である武田俊晃は、当時、ブリがよく釣れていたため、人に雇われて豊玉町でブリの飼付け漁に従事しており、同月一七日にも休めない状況で、同日には武田博夫を投票所に連れて行くことができないことが見込まれていたこと、たまたま同月一三日に武田俊晃が病院に行くため仕事を休むことができたので、その機会に武田博夫を不在者投票所に連れて行き、不在者投票をさせたこと、補助執行者は、武田俊晃及び同行した武田若子から、右のような事情で不在者投票用紙等の交付を請求する旨説明を受けたこと、武田博夫は車椅子で不在者投票に来所し、一見して介護が必要な状況であったことが認められる。なお、証人武田俊晃の証言によれば、宣誓書兼請求書の行き先欄の記載が「上県郡上対馬町」となっているのは、武田若子が母親の看病のため上対馬町の病院に行くので、その話を補助執行者が聞き間違えて記載したものと推定される。
右認定の事実に照らすと、武田博夫は、疾病ないし身体の障害のため歩行が著しく困難であるべきものであって、このことにより選挙の当日自ら投票所に行き投票をすることができないものというべきであるから、その不在者投票は三号事由を具備していることとなる。そして、宣誓書兼請求書の記載は不適切ではあるものの、補助執行者は、宣誓書兼請求書の記載並びに武田俊晃及び武田若子の口頭説明により、右三号事由を具備するものと判断したといえるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものである。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(四) 番号6について
乙第一一号証の六、第二二号証、証人春日亀隆義によれば、梶木屋栄二(番号6)は一一月一四日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「投票当日のみ」に○が付され、行き先欄には「下県郡上対馬町比田勝」と記載され、不在理由欄には「2」の「その他」に○印が付されていること、補助執行者春日亀は、梶木屋栄二から、選挙の当日は友人のところに行くとの説明を受けたが、それ以上詳しく聞かずに不在者投票用紙等の交付請求に応じたことが認められる。
右認定事実に照らせば、梶木屋栄二の申し立てた不在理由は私事旅行に当たるところ、補助執行者としては、これが、「やむを得ない用務」の要件に該当するか否かの点について全く質問等をしていないから、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ない。
したがって、町選管の委員長による管理執行手続には違法があることとなる。
(五) 番号7について
乙第一一号証の七、証人平山哲正の証言によれば、大石徳光(番号7)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月二〇日まで」、行き先欄には「福岡県北九州市八幡西区下上津役」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、補助執行者平山は、大石徳光から、選挙の当日は弟のところへ行くとの説明を受けたことが認められる。
右認定事実に照らせば、大石徳光の申し立てた不在理由は私事旅行に当たるところ、補助執行者としては、これが、「やむを得ない用務」の要件に該当するか否かについて全く質問等をしていないから、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ない。
しがたって、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(六) 番号8について
乙第一一号証の八、証人小茂田早苗、同平山哲正の証言によれば、小茂田早苗(番号8)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から一一月一七日まで」、行き先欄には「福岡市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付され、「私用」と付記されていること、同人は、福岡市内に居住する次女の縁談の件で同人と会って相談するため、同市に行く予定があったこと、同月一七日には、最終便の一つ前の飛行機で帰って来ることとしていたが、欠航などもあり得るので、ひょっとしたら投票できないかも知れないと考えて、不在者投票用紙等の交付を請求したこと、補助執行者平山は、小茂田早苗から、単に旅行とのみ説明を受けたが、その具体的内容については、当日の投票時間内に帰って来られないか否かについても含めて特段質問せず、小茂田早苗も、プライバシーに関わることなので説明しなかったことが認められる。
右認定の事実に照らすと、小茂田早苗の不在理由はいわゆる私事旅行に当たるところ、宣誓書兼請求書の記載のみからは、これが「やむを得ない用務」の要件に該当するか否かを判断することは到底不可能であるにもかかわらず、補助執行者は、小茂田早苗から、単に旅行との説明を受けたのみで、漫然と不在者投票をさせているのである。そして、小茂田早苗において、旅行の具体的な目的について明らかにしにくい事情はあるものの、補助執行者は、右の要件についての質問等を一切しなかったのであるから、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ない。
したがって、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(七) 番号9及び10について
乙第一一号証の九ないし一一、証人春日亀隆義、同平山哲正の各証言によれば、緒方成幸(番号9)、緒方シキノ(同10)及び緒方於花(同11)はいずれも一一月一二日に不在者投票をしたこと、右三名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一八日まで」、行き先欄には「長崎県下県郡美津島町鶏知」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、補助執行者春日亀は、揃って来所した右三名から、不在理由として、「鶏知に三人一緒にいかにゃいかんけん」と述べられたことが認められる。
右認定の事実に照らすと、緒方成幸及び緒方シキノの申し立てた不在理由はいわゆる私事旅行に当たるものと考えられるところ、宣誓書兼請求書の記載及び右のような口頭説明からは、これが「やむを得ない用務」の要件に該当するか否かを判断することは到底不可能であるが、春日亀が旅行の具体的目的等について質問したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものであり、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(八) 番号11について
証人春日亀隆義、同平山哲正の各証言によれば、緒方於花(番号11)は下半身が悪く、右(七)で認定した不在者投票当日も車椅子で来所したことが認められる。そうすると、同人は、疾病又は身体の障害のため歩行が著しく困難であるべきことにより、選挙の当日は自ら投票所に行き投票をすることができないこととなるから、その不在者投票は三号事由を具備することとなる。そして、当日、補助執行者春日亀及び同平山が三号事由について意識していなかったとしても、右各証言によれば、緒方於花の右のような身体的状況は右補助執行者らに明らかであったから、補助執行者において、三号事由についての審査義務を尽くしたものというを妨げない。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(九) 番号12について
乙第一一号証の一二、証人福島勇、同春日亀隆義の各証言によれば、福島勇(番号12)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「投票当日のみ」に○印が付され、行き先欄には「厳原下県郡厳原町」と記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は、兄が厳原の病院に入院していたので、選挙の当日に見舞いに行くことを決め、不在者投票用紙等の交付を請求したこと、補助執行者が不在理由を尋ねたところ、入院中の兄の見舞いに行くとの回答を得たこと、福島勇は、その前に兄が退院したので、投票当日は見舞いに行かなかったことが認められる。
右認定事実に照らすと、福島勇が兄の見舞いに行くのが同月一七日でなければならない必要性は明らかではなく、宣誓書兼請求書の記載及び福島勇の口頭の説明のみでは、同人が選挙の当日に上県町外にあるべきことが「やむを得ない用務」の要件に該当するか否か判断することは不可能である。そして、補助執行者が、右記載及び口頭説明以上に右の必要性等について質問等したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、不在者投票事由について具体的に明らかにすることなく漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
なお、原告らは、福島勇の不在者投票について、予備的に三号事由を具備する旨主張する。証人福島勇の証言によれば、福島勇は体が悪く、授産施設「あゆみ園」に通園していることが認められるけれども、このことのみでは、同人について、身体の障害等により歩行が著しく困難であるべきことにより、選挙の当日自ら投票所に行き投票をすることができないものと必ずしも認めることはできず、他に同人の不在者投票が三号事由を具備していることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由についての審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ず、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(一〇) 番号14について
乙第一一号証の一四、証人小宮清次、同春日亀隆義の各証言によれば、小宮清次(番号14)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一九日まで」、行き先欄には「長崎県大村市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は大村市所在の自動車運転免許試験場に大型特殊自動車免許の試験を受験に行く予定であったこと、右免許の試験日は月、火、水曜日なので、試験に落第する場合を考えて、月曜日から受験することとしたため、日曜日である一一月一七日のうちに大村市へ行くべく、不在者投票用紙等の交付を請求したこと、同日は一便の飛行機で大村市に行くつもりであり、投票を済ませてから行くことは考えていなかったこと、補助執行者春日亀は、小宮清次から、大村市所在の自動車運転免許試験場に右試験を受験に行くとの説明を受けたこと、小宮清次は、厳原町でも受験でくることが判明したため、一一月一七日は大村市に行かず、その上、同月一八日には仕事が入ったため、結局、厳原町でも受験しなかったことが認められる。
右認定の事実に照らすと、小宮清次としては、大型特殊自動車免許は対馬内の厳原町でも受験できたのみならず、大村市で受験するにしても、同月一七日に投票を済ませてから出発しても十分間に合ったのであるから、やむを得ない用務により当該投票区のある市町村の区域外に旅行中であるべきことにより、選挙の当日自ら投票所に行き投票をすることができない場合に当たるとは到底いい難い。そして、補助執行者としては、小宮清次に対し、右の具体的な受験日等について質問しておれば、不在者投票事由を具備していないことは容易に判明したにもかかわらず、そのような質問等をすることなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものであり、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(一一) 番号15について
乙第一一号証の一五、証人佐伯葉子の証言によれば、佐伯葉子(番号15)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一二日から一一月二二日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は、以前に左足の靱帯を切り、左足が短くなっていることにより、左右の足の長さを調節するための足底板を作るため、福岡市内の整形外科に行く予定にしていたこと、以前に別の病院で足底板を作ったときに一〇日間かかったので、今回も一〇日間の旅行としたこと、同人は、ペーパーフラワーの講師をしており、その仕事の都合で空きができたのが右の期間であり、整形外科を紹介してくれた同人のいとこも、仕事の関係から右の期間が都合がよかったこと、実際は、佐伯葉子は、同月一三日に足型をとり、同月一八日に足底板が出来上がったが、その間は長崎の娘の家に滞在していたこと、補助執行者春日亀は、佐伯葉子から、足底板を作りに福岡の病院に行く旨の説明を受けたことが認められる。
右のように、左右の足の長さが異なるという障害を持つ者にとって、足底板は、日常生活上一日も早く必要とするものであり、佐伯葉子が選挙の当日を含む不在期間欄記載の期間に福岡市の整形外科へ行ってこれを作りたいと考えたことには、無理からぬものがある。したがって、右不在理由は、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難である等の事情が認められる場合に該当するものであり、佐伯葉子は、一一月一七日には、やむを得ない用務により上県町外にあるべきものとして、その不在者投票は二号事由を具備しているということができる。そして、補助執行者春日亀は、佐伯葉子とは以前から面識があり、不在者投票当日も、同人の身体的状況上、同人の足が悪いことは外部的にも明白であったと考えられる上、足底板は、その性質上、作成までに数日程度を要することも容易に推測できる。したがって、春日亀としては、従前の知識、佐伯葉子の身体的状況、宣誓書兼請求書の記載及び同人による口頭説明により、右事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものである。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(一二) 番号16及び17について
乙第一一号証の一六、一七、証人春日亀隆義の証言によれば、佐伯日登司(番号16)及び佐伯静乃(17)はいずれも一一月一二日に不在者投票をしたこと、右両名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一三日から一一月二〇日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていることが認められる。
右認定の事実に照らすと、右両名の申し立てた不在理由はいわゆる私事旅行に当たるものと考えられるところ、宣誓書兼請求書の記載のみからは、これが「やむを得ない用務」の要件に当たるか否かを判断することは到底不可能である。そして、証人春日亀隆義は、右旅行の目的を聞いていると思うが、よく覚えていないと供述しており、他に補助執行者が右両名の不在者投票事由についてどのような質問をし、右両名からどのような説明を受けたかを認定するに足りる証拠はない。そうすると、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者としては、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものであり、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(一三) 番号18について
乙第一一号証の一八、証人春日亀隆義の証言によれば、小宮為美(番号18)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一四日から一一月一八日まで」、行き先欄には「福岡市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、補助執行者春日亀は小宮為美と面識があり、同人が普段から病院通いをしていることを知っていたこと、春日亀から小宮為美に不在者投票の理由を尋ねたところ、病院に行かなければならない旨の説明を受けたことが認められる。
右認定事実に照らすと、小宮為美の右不在理由は、定期的に受けることとなっている治療ないし検査のため福岡市内の病院に行くための旅行であると推認され、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難である等の事情があるものとして、二号事由に該当するということができる。そして、補助執行者春日亀は、小宮為美が普段から病院通いをしていることを知っていたし、上県町という離島内の地域に居住する者が、検査又は治療のために右の程度の期間福岡市に行くことには無理からものがあるということは、補助執行者において特段説明を受けなくても、容易に認識することができるというべきである。
したがって、補助執行者としては、従前からの知識、宣誓書兼請求書の記載及び小宮為美による口頭説明を総合して、右事由を認識して不在者投票をさせたこととなり、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができるから、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(一四) 番号19について
乙第一一号証の一九、証人春日亀隆義の証言によれば、神宮増子(番号19)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一二日から一一月二〇日まで」、行き先欄には「長崎県長崎市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、補助執行者春日亀は、神宮増子から、病院に行く旨説明を受けたこと、同人は、不在者投票に来所した際は、かなり顔色が悪く、一見して体調不良の状況にあったことが認められる。
原告らは、同人の不在者投票事由について三号事由を主張するものの、同人の身体的状況及び口頭説明を総合すれば、同人は直ちに医師による診療ないし治療を要する状態にあるものと判断され、宣誓書兼請求書記載の不在期間の始期が不在者投票日であることも考え合わせると、同人は不在者投票の後直ちに長崎市所在の病院に行く必要があり、しかも、診断によっては、同月一七日までに帰って来られないことが見込まれたということができる。そして、補助執行者としては、右宣誓書兼請求書の記載、同人の口頭説明及び右のような身体的状況から、二号事由を具備するものと判断したものと推認されるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(一五) 番号20について
乙第一一号証の二〇によれば、小宮喜夫(番号20)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から一一月一八日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていることが認められる。
右認定の事実に照らすと、同人の申し立てた不在理由はいわゆる私事旅行に当たるものと考えられるところ、宣誓書兼請求書の記載のみからは、これが「やむを得ない用務」の要件に当たるか否かを判断することは到底不可能である。そして、補助執行者春日亀が旅行の目的や、同月一七日の投票時間内に帰って来られないか否かについて質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものであり、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(一六) 番号21について
乙第一一号証の一二、証人弘川厳の証言によれば、弘川厳(番号21)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「投票当日のみ」に○印が付され、行き先欄には「下県郡厳原」と記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、当時、厳原に住んでいる同人の娘の体の具合が悪く、娘には四人の子供がいたが、夫が刑務所で服役中であり、弘川厳が世話をする必要があったため、不在者投票用紙等の交付を請求したこと、補助執行者は、弘川厳から、娘の具合が悪く、一二日の夜から四、五日間厳原に行く必要があり、選挙の日までに戻って来ることができないとの説明を受けたこと、宣誓書兼請求書の不在期間欄の記載は補助執行者の誤記であることが認められる。
右認定の事実に照らすと、弘川厳は、一一月一七日には、やむを得ない用務により上県町外にあるべきものとして、その不在者投票には二号事由を具備しているといえるところ、補助執行者は、宣誓書兼請求書の記載及び弘川厳の口頭説明により、右事実を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(一七) 番号25について
乙第一一号証の二五、証人春日亀隆義の証言によれば、糸瀬千春(番号25)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「投票当日のみ」に○印が付され、行き先欄には「福岡県福岡市南区」と記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、補助執行者春日亀は、糸瀬千春から、友人のところに行くとの説明を受けたことが認められる。
右認定の事実に照らすと、同人の申し立てた不在理由はいわゆる私事旅行に当たるものと考えられるところ、宣誓書兼請求書の記載のみからは、これが「やむを得ない用務」の要件に当たるか否かを判断することは到底不可能である。そして、補助執行者春日亀が、旅行の目的や、同月一七日の投票時間内に帰って来られないか否かについて質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くしておらず、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(一八) 番号26及び27について
甲第二、第三号証、第八号証の一ないし三、乙第一一号証の二六、二七、証人春日亀隆義、同灘一の各証言によれば、山本治之(番号26)及び山本敏子(同27)は一一月一二日に不在者投票をしたこと(乙第一一号証の二六、二七の処理簿中受理月日が一一月二二日と記載されているのは誤記と認められる。)、右両名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一三日から一一月二五日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市西区姪浜」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、両名とも、福岡市内の眼科へ白内障の受診に行くこととしていたこと、補助執行者春日亀は、右両名から、姪浜の子供のところに行くとの説明を受けたこと、右両名は、実際に同月一五日に受診していることが認められる。
右認定事実に照らすと、右両名は、福岡市内の眼科で白内障の診察を受け、そのついでに姪浜所在の子供宅へ旅行することとしたものと推認される(白内障の診察だけに一二日間も要するとは考えられない。)から、同人らの申し立てた不在理由はいわゆる私事旅行に当たるものと考えられるところ、右両名が春日亀に対し、白内障で診察を受ける旨申し述べたことを認めるに足りる証拠はなく、宣誓書兼請求書の記載及び右両名による口頭説明からは、これが「やむを得ない用務」の要件に当たるか否かを判断することは不可能である。そして、補助執行者春日亀が、右の要件について質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くしておらず、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(一九) 番号29について
乙第一一号証の二九、証人森千百合、同春日亀隆義の各証言によれば、森千百合(番号29)は夫の森寛士とともに一一月一二日に不在者投票をしたこと、宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一二日から一一月一七日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市中央区」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていると、森寛士は獣医師で、「NOSAI家畜診療所」に勤務しており、職場からの命令により、一一月一二日から一七日まで福岡に出張することが以前から決まっていたこと、森千百合は、専業主婦であるが、夫が出張する際にはいつも同道して福岡所在の夫の実家に帰省することとしていること、今回も一歳の子供を連れて一緒に旅行することとし、夫の実家に泊まる予定にしていたこと、補助執行者春日亀は、森寛士、森千百合夫婦と面識があり、夫が出張するときはいつも森千百合も帰省することを知っていたこと、春日亀は、森千百合から、夫が出張なので一緒に行くと説明を受けたこと、森千百合に対し、同月一七日は帰って来てから投票できないかと質問したことが認められる(右の質問に対しては、帰りが投票時間内に間に合わない旨の回答を得たものと推認される。)。
右の帰省は、私事旅行に該当するものではあるけれども、上県町の所在する対馬下島は離島であり、福岡への帰省が通常困難であることにかんがみると、専業主婦が夫の出張の機会を利用して子供を連れて夫の実家に帰省することは、当日以外に日程を変更することが著しく困難なものに当たり、やむを得ない用務により当該投票区のある市町村の区域外にあるべきものとして、二号事由に該当するものというべきである。そして、補助執行者は、従前からの知識に合わせて、宣誓書兼請求書の記載、森千百合の口頭説明を総合することにより、右事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものである。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(二〇) 番号30について
乙第一一号証の三〇、証人長尾荘一の証言によれば、長尾荘一(番号30)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一三日から一一月二〇日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市博多区竹下」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、長尾荘一は上県町役場の課長で、社会福祉協議会の委員も兼ねており、一一月一四日に長崎県松浦市で開催される福祉大会に出席した後、その機会を利用して、行き先欄記載の地に居住している孫に会いに行く約束をしたため、不在者投票用紙等の交付を請求したこと、航空券は一週間くらい前に取ったこと、補助執行者斎藤は、長尾荘一から、福祉大会に出席した後福岡市の孫のところに行く約束をしているとの説明を受けたことが認められる。
右認定事実に照らすと、長尾荘一が選挙の当日福岡市に行くのは、福祉大会への出席のついでに孫に会いに行くためであり、私事旅行に当たるものである。しかし、上県町の所在する対馬下島は離島であり、福岡市へたやすくは行けないことにかんがみると、公務の機会を利用して、同じ九州本土内の親族を訪問しようと考えることにはもっともな面がある。このことからすると、同人の不在理由は、当日以外に日程を変更することが著しく困難な事情があるということができ、二号事由に該当するものというべきである。そして、補助執行者は、同じ職場の課長である長尾荘一が社会福祉協議会の委員を兼ねていることは当然知っていたものと推認され、このような従前からの知識に宣誓書兼請求書の記載及び長尾荘一による口頭説明を総合することにより、右事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものというべきである。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(二一) 番号31について
甲第九号証の一ないし五、乙第一一号証の三一、証人西山岩夫の証言によれば、二宮優子(番号31)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一二日から一一月一八日まで」、行き先欄には「下県郡美津島町鴨居瀬」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、補助執行者西山は、二宮優子から、両親が寝たきりで、二宮優子が世話をしているところ、行き先欄記載の地に居住して漁業に従事している弟が遠洋漁業に長期出漁するので、その前に、不在中の事柄につき相談するため会いに行くとの説明を受けたことが認められる。
右説明に係る不在理由は、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難な旅行に当たり、やむを得ない用務により選挙の当日上県町外にあるべきものとして、二号事由に該当するというべきである。そして、補助執行者は、宣誓書兼請求書の記載及び二宮優子の口頭説明を総合することにより、右事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものというべきである。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(二二) 番号32について
乙第一一号証の三二、証人川本サク、同斎藤昌敏の各証言によれば、川本サク(番号32)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「投票当日のみ」に○印が付され、行き先欄には「長崎県下県郡美津島町鶏知」と記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は、次男が行き先欄記載の地に自宅を建てたので、選挙の当日は新築祝いを兼ねて次男に会いに行くこととし、不在者投票用紙等の交付を請求したこと、補助執行者斎藤は、川本サクから、選挙の当日は子供の新築祝いに朝早くから出かけるからとの説明を受けたこと、斎藤は、川本サクに対し、選挙の当日の投票時間内に戻って来られないのかという質問をしたところ、年寄りだから、時間どおりに帰って来られるかどうか分からない旨の回答を得たこと、同人は明治四〇年生まれであることが認められる。
親族の新築祝いに行くことは、儀礼等の理由から社会通念上必要な用務といえ、できるだけ早い日曜日に祝いに行くことにも心情的にもっともな面があるから、川本サクが、選挙の当日、次男の新築祝い等のため美津島町鶏知に行くことは、やむを得ない用務によるものということができ、同人の不在者投票は二号事由を具備するものというべきである。そして、右認定事実に照らせば、補助執行者斎藤は、宣誓書兼請求書の記載及び川本サクによる口頭説明を総合することにより、右事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものというべきである。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(二三) 番号34について
乙第一一号証の三四、証人西山シゲ子(ただし、訴訟記録中の証人等目録には、同証人の氏名は「西山シゲ」と表示されている。)、同斎藤昌敏、同人西山岩夫の各証言によれば、西山シゲ子(番号34)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一三日から一一月一八日まで」、行き先欄には「奈良県吉野山高野山参り」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は、生きている限り毎年高野山参りをすると決めており、現にそうしていること、一年のうちいつ行くかということは特に決めておらず、自分が気の向いたときに行くこと、平成八年は、一一月一三日から高野山へ行こうと同月八日ころ決めたこと、同人にとっては、信仰上、思い立ったときが参るときであり、日程の変更はできないこと、補助執行者斎藤は、選挙の当日までには帰って来られないということは西山シゲ子に確認したものの、目的は高野山参りということではっきりしているから、それ以上立ち入った質問はしなかったことが認められる。
右のとおり西山シゲ子が決めた高野山参りの日程が変更できないことは、信仰上の理由によるものであるけれども、補助執行者としては、単に旅行目的が明確であるとのことから二号事由を具備するものと速断し、日程の変更の許否等について特段質問等することなく、漫然と不在者投票をさせたことは、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ない。
したがって、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(二四) 番号35及び36について
乙第一一号証の三五、三六、証人斎藤昌敏の証言によれば、永留正樹(番号35)及び永留重子(同36)はいずれも一一月一二日に不在者投票をしたこと、右両名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一二日から一一月二二日まで」、行き先欄には「長崎県下県郡美津島町」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、補助執行者斎藤は、右両名から、右期間は病院に行くとの説明を受けたこと、行き先欄記載の美津島町には国立厳原病院があることが認められる。
右認定事実に照らすと、右両名は、病院で検査ないし治療を受けるために不在者投票用紙等の交付請求をしたものと推認されるけれども、右の程度の口頭説明では、同じ対馬内の病院で検査ないし治療を受けるために、右のような長期間旅行しなければならない理由が何ら明らかでない。そして、補助執行者が右の点について質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くしておらず、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(二五) 番号39について
甲第一三号証の一及び二、乙第一一号証の三九、証人斎藤昌敏の証言によれば、阿比留輝次(番号39)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一七日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は建設業を営んでいるところ、自宅の建築を計画し、一一月一六日から同月一七日まで、トステム株式会社が福岡市内のショールームで展示会を開くこととなっていたので、その場で右の期間建設会社の社長と建築資材の購入のための商談の予定を組んだこと、補助執行者斎藤は、阿比留輝次から右のような説明を受けたことが認められる。
右不在理由は、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難な事情があり、二号事由に該当することは明らかである。そして、補助執行者は、宣誓書兼請求書の記載及び阿比留輝次の口頭説明を総合して、右事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものである。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(二六) 番号40について
乙第一一号証の四〇、証人高原一男、同斎藤昌敏の各証言によれば、過能トキヨ(番号40)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一二日から一一月一八日まで」、行き先欄には「福岡県八女郡広川町」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は、行き先欄記載の地に居住する姉に会いたがっていたが、自身が特別養護老人ホームに入ることが決まっていて、長期入所になることが見込まれていたこと、当時過能トキヨの姪の高原一二三の夫であった高原一男は焼鳥屋を経営しているところ、焼鳥屋は選挙期間中は客が入らないので、その時期に高原一二三とともに過能トキヨを同人の姉に会わせに広川町に連れて行こうと考え、過能トキヨにおいて不在者投票用紙等の交付を請求することになったこと、補助執行者斎藤は、過能トキヨ及び高原一男とともに不在者投票所に来所した高原一二三から、右期間は過能トキヨの姉の家に連れて行くとの説明を受け、選挙の当日までには帰って来られないことも確認したことが認められる。
右は、私事旅行に該当するものではあるけれども、右認定の事情にかんがみると、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難であり、やむを得ない用務による旅行に該当するものというべきである。そして、補助執行者は、宣誓書兼請求書の記載、高原一二三の口頭説明を総合することにより、右二号事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(二七) 番号41について
乙第一一号証の四一、証人國分学、同斎藤昌敏の各証言によれば、國分学(番号41)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一三日から一一月一八日まで」、行き先欄には「宮崎県日向市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は農業を営んでいるところ、一一月一三日から一五日までの間、宮崎県日向市で開催される対馬農業協同組合の椎茸部会の研修会に出席し、そのついでに福岡市在住の息子及び娘、佐賀在住の姉の子供に会いに行くこととしたこと、息子や娘には年一度程度しか会う機会がないこと、補助執行者斎藤は、國分学から、椎茸の関係の研修に行く旨の説明を受けたことが認められる。
右認定の事実によれば、國分学は、選挙の当日は、研修を受けるためではなく、息子や娘に会うために上県町外に旅行していることになるが、補助執行者としては、宣誓書兼請求書の記載及び國分学の口頭説明により、同人が不在期間欄記載の全期間、行き先欄記載の地で椎茸の関係の研修を受けるものと認識判断し、二号事由に当たるとして不在者投票をさせたものと推定される。そして、右のような判断資料に照らすと、補助執行者がそのように認識判断したことには無理からぬものがあるというべきであり、補助執行者としては、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(二八) 番号42について
甲第一二号証の一及び二、乙第一一号証の四二、第一一号証の五九の一、証人立花英二及び同小宮三重子の各証言によれば、小宮三重子(番号42)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一四日から一一月一七日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市中央区天神」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は、交際中の立花英二(番号59)とともに結婚指輪を買うため福岡市内へ旅行する予定にしており、このことは六月ころから決めていて、二か月前には航空券を予約していたこと、補助執行者は、小宮三重子に対し、どこに行くのか、何をしに行くのか、いつから行くのかの三点を尋ねたところ、同人から、同月一六日から一七日まで福岡に恋人と買い物に行く旨の説明を受けたこと、航空券が予約済みである旨の説明は受けていないことが認められる。なお、宣誓書兼請求書の不在期間欄の記載は上記認定と矛盾するが、証人小宮三重子の証言によれば、これは補助執行者が記入したことが認められるため、補助執行者の聞き間違いによるものと推定される。
右認定事実に照らせば、小宮三重子の旅行は、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難であり、やむを得ない用務によるものということができる。しかし、右のような宣誓書兼請求書の記載及び同人の口頭説明のみからは、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難であるか否か判断することは不可能であるところ、補助執行者は、小宮三重子が一一月一七日に旅行しなければならない具体的理由等について明らかにすることなく、二号事由が具備されているものと速断し、漫然と不在者投票をさせたものということになる。
そうすると、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものであり、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(二九) 番号44について
乙第一一号証の四四、証人西山和喜子、同春日亀隆義の各証言によれば、西山和喜子(番号44)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一九日まで」、行き先欄には「福岡県福北九州市小倉」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は、静岡にいる娘の体調が悪くなり、加勢に行くこととなったため、不在者投票用紙等の交付請求をしたこと、実際は、西山和喜子は右期間に腰が痛くなり、静岡には行かなかったことが認められる。なお、証人春日亀隆義の証言によれば、宣誓書兼請求書の行き先欄は補助執行者春日亀が記載したものであることが認められるところ、その記載が実際と異なっているのは同人の聞き間違いと推認される。
右認定事実に照らすと、西山和喜子が選挙の当日に行き先欄記載の地に行くのは私事旅行に当たるものである。しかるに、宣誓書兼請求書の記載のみからは、これが「やむを得ない用務」の要件に当たるか否かを判断することは不可能である。そして補助執行者春日亀が右の要件について質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することはなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くしておらず、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(三〇) 番号46について
乙第一一号証の四六の一、証人糸瀬政春、同西山岩夫の各証言によれば、糸瀬政春(番号46について)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から一一月一八日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、糸瀬政春は漁業を営んでいるところ、一一月中旬はヨコワ漁の最盛期で、同人も出漁していたこと、ヨコワ漁の漁場は福岡か五島であるが、実際は魚群を追いかけて行くため、日によって行き場所が異なり、予め確定的な場所を記載することはできないこと、出漁は遅くとも午前五時で、帰漁は早くとも午後六時頃であるところ、同人は、以前、ヨコワ漁に出漁していて投票に間に合わなかったことがあったため、以後は選挙のたびに不在者投票をしていたこと、宣誓書兼請求書の不在理由欄の「旅行」に○印を付したのは、それまでそのようにしても通っていたからであったこと、補助執行者西山は、糸瀬政春と面識があり、同人が漁業を営んでいることは知っていたこと、旅行の具体的内容について糸瀬政春に質問したところ、出漁のため福岡に行くとの説明を受けたことが認められる。
原告らは、同人の不在者投票事由について二号事由を主張するが、右認定の事実に照らすと、糸瀬政春は、選挙の当日には、投票区の区域外において職務に従事中であるべきことになり、同人の不在者投票は一号事由を具備するものというべきところ、補助執行者としても、主として糸瀬政春の口頭説明により、右事由を認識して不在者投票をさせたこととなるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(三一) 番号48について
乙第一一号証の四八、証人内野源之允、同西山岩夫の各証言によれば、内野源之允(番号48)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一三日から一一月二〇日まで」、行き先欄には「福岡県早良区南庄六丁目八番五号」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は、一か月くらい前から眼鏡が合わなくなってきたので、行き先欄記載の次男宅に行って、眼鏡屋を紹介してもらおうと思い、不在者投票の一、二日前に航空券を予約したこと、右期間に眼鏡屋に行かなければならない事情は特になかったこと、補助執行者西山は、内野源之允から、福岡に行くから選挙の当日にいないので、不在者投票をさせてくれとの申立てを受けたが、その際、息子の所に行くとの説明は受けておらず、旅行も目的等について西山の方から特段質問はしなかったことが認められる。
右認定事実に照らすと、内野源之允の右の旅行は、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難な事情があるとは認められない。そして、宣誓書兼請求書の記載及び内野源之允による口頭説明のみからは、これが「やむを得ない用務」の要件に当たるか否かを判断することは不可能であるところ、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等をすることなく、漫然と不在者投票をさせたもであるから、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ない。
したがって、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(三二) 番号50について
乙第一一号証の五〇の一、証人阿比留菊男、同阿比留多津代、同斎藤昌敏、同人西山岩夫の各証言によれば、阿比留菊男(番号50)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から一一月一八日まで」、行き先欄には「長崎県平野町」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、阿比留菊男は、長崎市所在の純心高等学校のバレーボール部に所属する同人の次女が、同月一七日に実施される長崎県の新人戦に出場するため、妻の阿比留多津代とともに応援に行くこととして、不在者投票用紙等の交付を請求したこと、補助執行者斎藤は、阿比留菊男から、子供のバレーボールの応援に行く旨説明を受けたこと、投票当日までに帰って来られないかという質問はしていること(この質問に対しては、帰りが投票時間内に間に合わない旨の回答を得たものと推認される。)実際には、一一月一七日には、漁業を営む阿比留菊男は、ヨコワが獲れるというので応援を取りやめ出漁し、長崎市には妻だけが行ったことが認められる。
右の事由は、選挙の当日やむを得ない用務により上県町外に旅行中であるべきものとして、二号事由に該当することは明らかである。そして、学校の運動部の試合は通常日曜日に行われるものであり、試合終了予定時刻後、長崎市から上県町まで選挙の当日の投票時間内に帰着することは不可能であるから、補助執行者は、宣誓書兼請求書の不在期間及び行き先の記載、阿比留菊男の口頭説明を総合して、右事由を具備するものと判断したということができる。
したがって、補助執行者としては、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものであり、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(三三) 番号51について
乙第一一号証の五一の一、証人阿比留菊男、同阿比留多津代、同斎藤昌敏、同人西山岩夫の各証言によれば、阿比留多津代(番号51)は一一月一三日に夫の阿比留菊男とともに不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から一一月一九日まで」、行き先欄には「長崎県長崎市平野町一―二四 セントポール下宿」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、不在理由は、阿比留菊男と同じく次女の試合の応援のほか、娘の部屋の中を整理することであったこと、補助執行者は、阿比留多津代から、娘のバレーボールの応援で右の行き先に行くので不在者投票をさせて下さいと申し立てられたことが認められる。
右認定事実に照らせば、右(三二)と同じく、右不在者投票について町選管の管理執行手続に違法はないものというべきである。
(三四) 番号52及び53について
乙第一一号証の五二及び五三の各一によれば、白石常夫(番号52)及び白石文子(番号53)はいずれも一一月一三日に不在者投票をしたこと、右両名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一八日まで」、行き先欄には「福岡県奈多東区三丁目―三―二五」(ただし、白石文子については「福岡県奈多(東)区三丁目―三―二五」)とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていることが認められる。
右認定事実に照らすと、右両名の申し立てた不在理由は福岡市東区奈多への私事旅行であると考えられるところ、宣誓書兼請求書の記載のみからは、これが「やむを得ない用務」の要件に当たるか否かを判断することは到底不可能である。そして、補助執行者春日亀が旅行の目的や、同月一七日の投票時間内に帰って来られないか否かについて質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くしておらず、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(三五) 番号54及び55について
甲第一四号証、乙第一一号証の五四及び五五、証人大谷兼二、同大谷キチノ、同春日亀隆義、同灘一の各証言によれば、大谷兼二(番号54)及び大谷キチノ(番号55)は一一月一四日に不在者投票をしたこと、右両名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から二〇日まで」、行き先欄には「神奈川県横浜市戸塚区」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、右両名は夫婦であるが、本件選挙の年が金婚式であったので、行き先欄記載の地に居住する息子がお祝に招いてくれ、航空券は予め送ってきていたこと、息子が家を建てるので、住宅ローンの連帯保証人になる必要もあったところ、息子の都合でこの時期を指定してきたこと、補助執行者春日亀は、上県町役場の宿直職員である大谷兼二とは面識があったが、どこに行くのかと尋ねたところ、単に子供がいる横浜まで行くとの説明を受けたが、不在理由等についてそれ以上の具体的質問はせず、大谷兼二からもそれ以上の説明はなかったこと、不在期間欄記載の期間は、右両名で鬼怒川温泉へ行き、それ以外は横浜市戸塚区の息子の家で泊まったことが認められる。
右認定事実に照らすと、右両名の旅行は、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難な事情があり、二号事由に該当するものというべきである。しかし、宣誓書兼請求書の記載及び右の程度の口頭説明からは、右のような具体的な不在者投票事由を認識することは到底困難であるところ、補助執行者としては、「やむを得ない用務」の要件について具体的な質問等をすることなく、漫然と不在者投票をさせたのであるから、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ない。
したがって、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(三六) 番号56ないし58について
甲第四号証ないし第六号証、第七号証の一ないし四、乙第一一号証の五六ないし五八、証人灘一の証言によれば、吉田善英(番号56)、同人の妻吉田志保子(番号57)及び娘の吉田知絵里(番号58)は一一月一四日に不在者投票をしたこと、右三名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から一一月一八日まで」、行き先欄には「福岡県北九州市八幡西区南八千代町」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、右三名は、右の期間、吉田善英及び吉田志保子の長男の子の七五三祝いのため、行き先欄記載の地に行く予定であったこと、補助執行者は右三名から、旅行の目的として、右のとおりの説明を受けたことが認められる。
一一月一七日は、七五三の日に直近する日曜日であるから、右三名の旅行が「やむを得ない用務」の要件を充し、二号事由を具備することは明らかであるところ、補助執行者としても、選挙の当日が七五三の日に直近する日曜日であることは知っていたものと推認され、宣誓書兼請求書の記載及び右三名の口頭説明を合わせ参酌することにより、右事由を認識して不在者投票をさせたこととなるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(三七) 番号59について
甲第一二号証の一及び二、乙第一一号証の四二、同号証の五九の一、証人立花英二及び同小宮三重子の各証言によれば、立花英二(番号59)は一一月一四日に不在者投票をしたこと、宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一七日まで」、行き先欄には「福岡県」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は、右不在期間は交際中の小宮三重子とともに福岡へ婚約指輪を買いに行く予定を立てており、以前から航空券を購入していたこと、補助執行者が立花英二に旅行の目的について質問したところ、前から決めていた旅行で、恋人と二人で行くとの説明を受け、選挙の当日には何時に帰ってくるかと質問したところ、午後八時から九時の間との回答を得たことが認められる。
右の事由は、私事旅行ではあるけれども、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難であるというべきであるから、立花英二の不在者投票は二号事由を具備するものということができる。そして、補助執行者は、宣誓書兼請求書の記載及び立花英二の口頭説明を総合して、右事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものである。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続に違法はない。
(三八) 番号60について
乙第一一号証の六〇、証人松村まゆみの証言によれば、松村まゆみ(番号60)は一一月一四日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一九日まで」、行き先欄には「長崎県長崎市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人の子供は佐世保市所在の九州文化学園高校のバレーボール部に所属しており、長崎市内で開催される県大会の試合に出場するため、松村まゆみはその応援に行く予定であったこと、同校はバレーボールが強く、決勝戦まで進出することが予想されたので、決勝戦まで応援する日程を組み、航空券の予約をしたこと、実際、同校は右の県大会で優勝したこと、補助執行者斎藤は、旅行の目的を質問したところ、松村まゆみから、子供のバレーボールの応援に行くとの回答を得たことが認められる。
したがって、前記(三二)と同様、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はないものというべきである。
(三九) 番号63について
乙第一一号証の六三の一、証人阿比留美智代、同西山岩夫の各証言によれば、阿比留美智代(番号63)は一一月一四日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一八日まで」、行き先欄には「福岡県」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は精神薄弱者更正施設である社会福祉法人梅仁会対馬学園の施設長をしているところ、右期間は対馬学園の入所者の保護者と福岡市内で面談する約束をしていたこと、補助執行者西山は、阿比留美智代から、単に旅行に行くとの説明を受けたこと、同人は、真の不在理由は、入所者の秘密保護のため西山に言わなかったことが認められる。
右認定事実に照らせば、阿比留美智代は、選挙の当日には、投票区の区域外において職務に従事中であるべきことになり、同人の不在者投票は一号事由を具備することとなる。しかし、右宣誓書兼請求書の記載及び同人による口頭説明のみからは、同人の不在者投票が不在者投票事由を具備するものか否か到底判明し得ないにもかかわらず、補助執行者は漫然と阿比留美智代に不在者投票をさせているから、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ない。
したがって、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(四〇) 番号64について
乙第一一号証の六四、証人内山等、同平山哲正の各証言によれば、内山等(番号64)は一一月一五日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月二〇日まで」、行き先欄には「長崎県長崎市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は、平成七年五月に狭心症のため上対馬病院に入院したことがあり、その際、CT検査は同病院で受けたこと、その際、MRIの検査も受けた方がよいと勧められたが、同病院にはMRIの設備がなかったため、医師に長崎市民病院への紹介状を書いてもらっていたところ、不在者投票をした二、三日前に自宅で発作が起こったので、早く検査を受けた方がよいと考え、同病院に行くこととしたこと、MRIの検査を受けるには三、四日入院を要する旨上対馬町病院の医師から聞いていたため、検査のついでに長崎在住の長男の家族に四、五年ぶりに会うこととして、右のような日程にしたこと、補助執行者平山は、内山等から、単に病院に検査に行く旨の説明を受けたが、予定を延ばすことはできないのかというような質問は特にしなかったことが認められる。
右認定事実に照らすと、内山等の右不在理由は、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難であり、やむを得ない用務によるものとして、二号事由を具備することは明らかである。そして、補助執行者平山は、内山等から、単に病院に検査にいく旨説明を受けたものであるけれども、一般に、健康状態に問題のある者が一日も早く検査を受けたいと考えるのは容易に理解できることであるし、上県町という離島内の地域に居住する者が、病院での検査のために右の程度の期間長崎市に行くことには無理からぬものがあるということは、補助執行者において特段説明を受けなくても認識することができるというべきであるから、補助執行者としては、宣誓書兼請求書の記載及び内山等による口頭説明を総合して、右事由を認識して不在者投票をさせたこととなり、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(四一) 番号66及び67について
乙第一一号証の六六の一及び六七の一、証人阿比留富生、同阿比留菊代、同西山岩夫の各証言によれば、阿比留富生(番号66)及び同人の妻の阿比留菊代(同67)はいずれも一一月一五日に不在者投票をしたこと、右両名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月二〇日まで」、行き先欄には「大阪府大阪市平野区」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、一一月七日に八年ぶりに孫(行き先欄記載の地に在住の長男阿比留栄一の子)が生まれ、しかも初めての内孫であったこと、同月一五日に孫とその母親が退院したので、名付けをするため一六日に大阪に行くこととしたこと、同日には大阪への直行便があったこと、補助執行者は、阿比留菊代とともに来所した阿比留富生から、八年ぶりに孫が生まれたので、名付けのために大阪へ行く旨説明を受けたことが認められる。
右認定の事実に照らすと、出生した孫を退院後できるだけ早く見に行きたいと考えるのは、もっともな心情であり、右の事由は、私事旅行ではあるけれども、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難である場合に準じるものとして、右両名の不在者投票は二号事由を具備するものというべきである。そして、補助執行者は、宣誓書兼請求書の記載及び阿比留富生の口頭説明を総合して、右事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はないものというべきである。
(四二) 番号69及び70について
乙第一一号証の六九の一、証人田﨑行憲、同田﨑祝子、同西山岩夫の各証言によれば、田﨑行憲(番号69)及び同人の妻の田﨑祝子(番号70)はいずれも一一月一五日に不在者投票をしたこと、右両名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「投票当日のみ」、に○印が付され、行き先欄には「福岡県築紫野市二日市八九五―四」(ただし、田﨑祝子の宣誓書兼請求書の記載は「福岡県築紫野市二日市八九五の四」)と記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付され、田﨑行憲の宣誓書兼請求書の職業(勤務先)欄には「教員(仁田中学校)」と記載されていること、行き先欄記載の地に在住の右両名の長女の子供が七五三であったこと、田﨑行憲は、当時上県町立仁田中学校の校長の職にあり、管理職として、平日は休暇が取りにくいため、七五三の日に近い日曜日ということで同月一七日に妻の田﨑祝子とともに祝いに行くこととしたこと、そのことは、不在者投票の一か月くらい前に決めていたこと、補助執行者西山は、田﨑行憲から、福岡の娘のところに用事で出かけるとの説明を受けたが、同月一七日のうちに帰って来られないかという質問はしていないことが認められる。なお、西山が、七五三の祝いに行くとの具体的内容について説明を受けたことを認めるに足りる証拠はない。
右の事由は、前記(三六)と同様、やむを得ない用務により投票区の区域外に旅行中であるべきものとして、二号事由に該当するものというべきである。しかし、補助執行者は、右両名から、単に娘のところに用事で出かけるとの説明を受けたというのであり、それのみでは、それが「やむを得ない用務」の要件に該当するのか否か到底判断することはできない。したがって、補助執行者において、この点につき質問等することなく漫然と不在者投票をさせたことは、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ない。
したがって、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(四三) 番号73及び74について
乙第一一号証の七三、七四、証人春日亀隆義の証言によれば、鳥居初音(番号73)及び折田耕一(番号74)は同棲中であるところ、いずれも一一月一五日に不在者投票をしたこと、右両名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一八日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていることが認められる。
右両名の申立てに係る不在理由は私事旅行に該当するものといえるところ、宣誓書兼請求書の記載のみからは、これが「やむを得ない用務」の要件に当たるか否かを判断することは到底不可能である。そして、補助執行者が右の要件について質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くしておらず、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(四四) 番号75について
乙第一一号証の七五、証人前間秀子の証言によれば、前間正照(番号75)は一一月一五日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月二三日まで」、行き先欄には「長崎県長崎市弥生町六―四一」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人は、友人の勤務する長崎市内の会社に就職するため、その友人の紹介で面接を受ける予定にしていたこと、面接は月曜日以降に実施される見込みであったこと、補助執行者は、前間正照とともに不在者投票のため来所した母親の前間秀子(番号76)から、前間正照は、長崎市内の友人の勤務する会社に就職するため、その友人の紹介で面接を受ける旨の説明を受けたため、宣誓書兼請求書の不在理由欄には「2」の「旅行」に○印を付けるよう指示したことが認められる。
右認定事実に照らすと、前間正照は、一一月一七日に投票を済ませてから長崎市に出発しても面接に間に合ったものとはいえなくはない。しかし、就職活動のために遠隔地に赴く場合には、日程的に余裕をもって出発することにも合理的な理由があるといえるし、後記(四五)のとおり、前間秀子が一一月一六日に長崎市に出発することについてはやむを得ない用務によるものということができるところ、同人の子である前間正照が、前間秀子と揃って出発することにも無理からぬものがあるから、前間正照の不在理由は、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難である等の事情がある場合に準じるものとして、やむを得ない用務による旅行に当たり、二号事由を具備するものというべきである。
そして、補助執行者は、二名揃って不在者投票に来た前間正照及び前間秀子から、前間正照の右不在理由及び後記(四五)認定のとおりの前間秀子の不在理由について口頭説明を受け、宣誓書兼請求書の記載も合わせ参酌することにより、右二号事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はないものというべきである。
(四五) 番号76について
乙第一一号証の七六、証人前間秀子の証言によれば、前間秀子(番号76)は一一月一五日に前間正照とともに不在者投票をしたこと、宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月二三日まで」、行き先欄には「長崎県長崎市弥生町六―四一」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」に○印が付されていること、同人の次男は、行き先欄記載の地に所在するアパートに居住し、長崎市所在の海星高校に通学していること、前間秀子は、同校から、心配なことがあるということで呼出しを受けたため、同校に出頭することとしたこと、学校の関係者に会う日については特に指定を受けておらず、いずれにせよ月曜日以降になる見込みであったこと、補助執行者は、前間秀子から、同校から、心配なことがあるということで呼出しを受けたので、同校に出頭する旨の説明を受け、宣誓書兼請求書の記載は「旅行」に○印を付けるよう同人に指示したことが認められる。
右認定事実に照らすと、前間秀子は、同校への出頭自体については、一一月一七日に投票を済ませてから出発しても面接に間に合ったということができる。しかし、親元を遠く離れて高等学校に通学する子供について、学校から呼出を受けた場合には、一日も早く子供の下に赴き、子供と会って話をする等して、事実関係を把握し、問題の解決に努めたいと考えるのが、子供を持つ親としての通常の心理であり、右不在理由は、選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難である場合に準じるものであって、前間秀子の不在者投票は二号事由を具備するものというべきである。そして、補助執行者は、宣誓書兼請求書の記載及び前間秀子の口頭説明を総合して、右事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものということができる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はないものというべきである。
(四六) 番号80について
乙第一一号証の八〇、証人高原一男、同斎藤昌敏の各証言によれば、高原一二三(番号80)は一一月一二日に不在者投票をしたこと、宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一二日から一一月一八日まで」、行き先欄には「福岡県八女郡広川町」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「旅行」及び「帰省」に○印が付されていることが認められ、また、同人は、過能トキヨを当時の夫とともに姉の家へ連れて行くため、不在者投票用紙等の交付を請求したこと及び補助執行者への説明内容は、前記(二六)認定のとおりである。
そうすると、前記(二六)で判示したところと同様、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はないものというべきである。
(四七) 番号81について
甲第一〇号証の一ないし三、乙第一一号証の八一によれば、井村保雄(番号82)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一七日まで」、行き先欄には「下県郡厳原町」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「帰省」に○印が付されていること、同人は対馬支庁上県土木駐在所に勤務しているところ、一一月一七日には美津島町での祖母の法事が予定されていたため、同町に行く必要があったこと、前日の一六日に厳原町所在の妻の実家に宿泊することとしていたため、行き先欄の記載が右のとおりとなっていることが認められる。
しかるに、右宣誓書兼請求書の記載のみからは、井村保雄の帰省が「やむを得ない用務」の要件に当たるか否かを判断することは到底不可能であるところ、補助執行者が、右の要件について質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くしておらず、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(四八) 番号82について
乙第一一号証の八二によれば、阿比留邦子(番号82)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月二一日まで」、行き先欄には「長崎県下県郡厳原町宮谷」、とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「帰省」に○印が付されていることが認められる。
右宣誓書兼請求書の記載のみからは、同人の帰省が「やむを得ない用務」の要件に当たるか否かを判断することは到底不可能であるところ、補助執行者が、右の要件について質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くしておらず、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(四九) 番号83について
乙第一一号証の八三、証人春日亀隆義の証言によれば、根占共美(番号83)は一一月一三日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から一一月一七日まで」、行き先欄には「下県郡厳原町北里」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「帰省」に○印が付されていること、補助執行者春日亀に対しては、厳原に帰ると説明したことが認められる。
右宣誓書兼請求書の記載及び根占共美による口頭説明のみからは、同人の帰省が「やむを得ない用務」の要件に当たるか否かを判断することは到底不可能であるところ、補助執行者が、右の要件について質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、それ以上に右要件についての質問等を一切することなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
したがって、補助執行者は、不在者投票事由について審査義務を尽くしておらず、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(五〇) 番号85について
乙第一一号証の八五の一、証人畑島正博の証言によれば、畑島正博(番号85)は一一月一四日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から一一月一七日まで」、行き先欄には「長崎県上県郡上対馬町網代」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「帰省」に○印が付されていること、同人は独身であり、行き先欄記載の地に在住の
別表1
番号
投票区
登録
番号
生年月日
性別
行き先
不在期間
該当号
不在理由
不在理由欄中の
その他の記載
職業(勤務先)
投票月日
1
1
698
S35.4.2
男
上県町
11.16/11.17
1
選挙事務
地方公務員
11月12日
2
3
28
S24.9.11
男
上県町
11.17
1
選挙事務
上県町役場
11月13日
3
1
325
S28.10.27
男
上県町
11.16/11.17
1
選挙事務
地方公務員
11月13日
4
1
830
S32.2.10
男
上県町
11.16/11.17
1
選挙事務
地方公務員
11月14日
5
1
800
S32.6.24
男
上県町
11.17
1
選挙事務
地方公務員
11月14日
6
8
24
S31.11.16
男
上県町
11.17
1
選挙事務
地方公務員
11月14日
7
5
136
S33.4.2
男
上県町
11.17
1
選挙事務
地方公務員
11月14日
8
1
519
S31.7.26
男
上県町
11.17
1
選挙事務
上県町教育委員会
11月15日
9
10
60
S28.6.13
男
上県町
11.16/11.17
1
選挙事務
上県町役場
11月15日
10
6
11
S25.4.18
女
上県町
11.17
1
選挙事務
上県町役場
11月15日
11
1
748
S21.4.27
男
上県町
11.16/11.17
1
選挙事務
地方公務員
11月16日
12
4
61
S31.3.1
男
上県町佐護
11.17
1
選挙事務
上県町役場
11月14日
13
1
13
S39.2.18
男
記入無
11.17
1
勤務
漁業に従事
漁業
11月13日
14
1
14
S38.7.6
女
上県町
11.17
1
勤務
漁業従事
漁業
11月13日
15
5
9
S42.12.18
女
記入無
11.17
1
勤務
特養ホーム早出
記入無
11月15日
16
20
4
S44.11.13
男
上県町
11.16/11.17
1
勤務
漁協
11月13日
17
9
166
S43.6.24
女
上対馬町
11.17
1
勤務
記入無
11月15日
18
1
425
S41.9.20
男
厳原町
11.17
1
勤務
記入無
11月16日
19
1
367
S37.2.24
男
厳原町
11.17
1
勤務
記入無
11月16目
20
1
472
S35.8.10
男
厳原町
11.17
1
勤務
記入無
11月16日
21
3
1
S11.3.24
男
福岡県福岡市
11.16/11.20
1
出張
記入無
11月15日
22
11
159
S4.5.30
男
横浜市
11.15/11.23
1
商用
記入無
11月13日
23
1
945
S3.3.23
男
厳原町
11.17
1
商用
無職
11月15日
24
1
946
T15.11.26
女
厳原町
11.17
1
商用
無職
11月15日
別表2
番号
投票区
登録
番号
生年月日
性別
行き先
不在期間
該当号
不在理由
不在理由欄中の
その他の記載
職業(勤務先)
投票月日
1
10
65
S29.3.31
男
上県町樫滝
11.14/11.19
2
見舞い
無職
11月14日
2
1
335
S50.1.18
女
記入無
11.15/11.17
2
その他
病院
主婦
11月13日
3
3
16
S18.11.1
男
厳原町
11.13/12.06
2
その他
仕事
記入無
11月12日
4
1
197
S11.3.25
男
上対馬町
11.17
2
その他
無職
11月13日
5
1
391
T10.1.18
女
上対馬町
11.17
2
その他
無職
11月13日
6
1
359
S23.12.1
男
上対馬町
11.17
2
その他
記入無
11月14日
7
5
31
S23.11.16
男
福岡県北九州市
11.16/11.20
2
旅行
無職
11月12日
8
1
251
S8.1.9
男
福岡市
11.15/11.17
2
旅行
私用
記入無
11月12日
9
3
21
S43.1.15
男
美津島町
11.16/11.18
2
その他
旅行
対成コンクリート
11月12日
10
3
23
S3.12.28
女
美津島町
11.16/11.18
2
その他
旅行
記入無
11月12日
11
3
22
M36.10.8
女
美津島町
11.16/11.18
2
その他
旅行
記入無
11月12日
12
5
140
S13.2.25
男
厳原町
11.17
2
旅行
無職
11月12日
13
1
548
T10.3.1
女
福岡県福岡市
11.16/11.18
2
旅行
無職
11月12日
14
5
80
S46.9.28
男
大村市
11.16/11.19
2
旅行
倉成運送
11月12日
15
1
601
S3.3.12
女
福岡県福岡市
11.12/11.22
2
旅行
主婦
11月12日
16
1
378
S8.4.15
男
福岡県福岡市
11.13/11.20
2
旅行
自営業
11月12日
17
1
379
S7.5.27
女
福岡県福岡市
11.13/11.20
2
旅行
自営業
11月12日
18
9
73
S7.8.20
男
福岡市
11.14/11.18
2
旅行
農業
11月12日
19
1
274
S4.11.25
女
長崎市
11.12/11.20
2
旅行
無職
11月12日
20
11
94
T2.2.28
男
福岡県福岡市
11.15/11.18
2
旅行
無職
11月12日
21
1
820
S13.12.12
男
厳原町
11.17
2
旅行
上建工業
11月12日
22
1
921
S34.10.19
男
福岡市内
11.15/11.20
2
旅行
親戚に会いに行くため
無職
11月12日
23
5
81
S42.8.5
男
福岡県福岡市
11.16/11.19
2
旅行
対馬コンクリート
11月12日
24
1
184
S5.12.4
女
福岡県宗像市
11.13/11.17
2
旅行
無職
11月12日
25
1
9
S48.2.10
女
福岡県福岡市
11.17
2
旅行
無職
11月12日
26
1
852
T9.6.26
男
福岡県福岡市
11.13/11.25
2
旅行
無職
11月12日
27
1
853
T12.8.22
女
福岡県福岡市
11.13/11.25
2
旅行
無職
11月12日
28
1
478
M44.4.15
男
福岡県北九州市
11.13/11.23
2
旅行
無職
11月12日
29
1
848
S39.4.22
女
福岡県福岡市
11.12/11.17
2
旅行
主婦
11月12日
30
16
123
S2.3.1
男
福岡県福岡市
11.13/11.20
2
旅行
漁業
11月12日
31
11
312
S35.7.15
女
美津島町
11.12/11.18
2
旅行
記入無
11月12日
32
12
63
M40.11.10
女
美津島町
11.17
2
旅行
無職
11月12日
33
1
491
S9.2.13
女
福岡県
11.15/11.18
2
旅行
記入無
11月12日
34
10
146
T4.10.10
女
奈良県吉野山高野山参り
11.13/11.18
2
旅行
無職
11月12日
35
19
176
M41.6.3
男
美津島町
11.12/11.22
2
旅行
無職
11月12日
36
19
177
T8.4.10
女
美津島町
11.12/11.22
2
旅行
無職
11月12日
37
20
1
S12.9.10
男
福岡県福岡市
11.16/11.17
2
旅行
漁業
11月12日
38
20
2
S22.9.13
女
福岡県福岡市
11.16/11.17
2
旅行
漁業
11月12日
39
19
21
S15.10.15
男
福岡県福岡市
11.16/11.17
2
旅行
建設業
11月12日
40
1
756
T9.3.8
女
福岡県広川町
11.12/11.18
2
旅行
無職
11月12日
41
17
40
S2.3.18
男
宮崎県日向市
11.13/11.18
2
旅行
農業
11月12日
42
12
123
S49.1.16
女
福岡県福岡市
11.14/11.17
2
旅行
天和産業
11月13日
43
1
483
S29.7.17
男
厳原町
11.16/11.17
2
旅行
記入無
11月13日
44
1
68
T12.3.28
女
福岡県北九州市
11.16/11.19
2
旅行
無職
11月13日
45
1
30
T6.5.12
女
福岡県北九州市
11.16/11.19
2
旅行
無職
11月13日
46
19
43
S26.3.15
男
福岡県福岡市
11.15/11.18
2
旅行
漁業
11月13日
47
12
92
T3.1.25
男
厳原町
11.13/11.20
2
旅行
無職
11月13日
48
12
54
M45.4.12
男
福岡県
11.13/11.20
2
旅行
無職
11月13日
49
16
29
S12.4.21
女
厳原町
11.16/11.18
2
旅行
無職
11月13日
50
19
24
S23.11.1
男
長崎市
11.15/11.18
2
旅行
記入無
11月13日
51
19
25
S29.1.2
女
長崎市
11.15/11.19
2
旅行
主婦
11月13日
52
13
25
T4.8.5
男
福岡県
11.16/11.18
2
旅行
無職
11月13日
53
13
26
T8.3.5
女
福岡県
11.16/11.18
2
旅行
無職
11月13日
54
1
158
T10.10.12
男
神奈川県横浜市
11.15/11.20
2
旅行
記入無
11月14日
55
1
159
T13.9.15
女
神奈川県横浜市
11.15/11.20
2
旅行
記入無
11月14日
56
1
568
S8.7.11
男
福岡県北九州市
11.15/11.18
2
旅行
無職
11月14日
57
1
569
S12.8.20
女
福岡県北九州市
11.15/11.18
2
旅行
無職
11月14日
58
1
570
S45.2.19
女
福岡県北九州市
11.15/11.18
2
旅行
記入無
11月14日
59
13
82
S48.8.9
男
福岡県
11.16/11.17
2
旅行
記入無
11月14日
60
19
226
S29.8.10
女
長崎市
11.16/11.19
2
旅行
記入無
11月14日
61
10
50
T9.7.13
男
福岡県福岡市
11.16/11.18
2
旅行
記入無
11月14日
62
11
103
S27.1.11
女
福岡県
11.16/11.18
2
旅行
対馬福祉事務所上県支所
11月14日
63
19
38
S34.2.19
女
福岡県
11.16/11.18
2
旅行
団体職員
11月14日
64
4
20
S1.12.25
男
長崎市
11.16/11.20
2
旅行
記入無
11月15日
65
1
688
T11.1.1
女
福岡県
11.16/
2
旅行
記入無
11月15日
66
16
2
S10.10.20
男
大阪府大阪市
11.16/11.20
2
旅行
僧侶
11月15日
67
16
3
S10.1.19
女
大阪府大阪市
11.16/11.20
2
旅行
無職
11月15日
68
1
422
S12.4.6
男
福岡県
11.16/11.18
2
旅行
(有)対成コンクリート
11月15日
69
10
126
S11.5.17
男
福岡県筑紫野市
11.17
2
旅行
私用
教員(仁田中学校)
11月15日
70
10
127
S17.9.8
女
福岡県筑紫野市
11.17
2
旅行
無職
11月15日
71
10
116
S40.8.1
男
東京都杉並区
11.16/11.20
2
旅行
無職
11月15日
72
1
346
S36.1.27
女
福岡県福岡市
11.16/11.18
2
旅行
小宮建設
11月15日
73
4
94
S51.3.6
女
福岡県福岡市
11.16/11.18
2
旅行
記入無
11月15日
74
1
747
S51.10.20
男
福岡県福岡市
11.16/11.18
2
旅行
記入無
11月15日
75
1
498
S50.1.27
男
長崎市
11.16/11.23
2
旅行
記入無
11月15日
76
1
497
S25.9.13
女
長崎市
11.16/11.23
2
旅行
記入無
11月15日
77
1
521
T7.11.1
女
福岡県
11.17/11.20
2
旅行
無職
11月16日
78
19
200
S43.8.31
女
福岡県福岡市
11.16/11.17
2
旅行
教員
11月16日
79
19
96
S24.7.13
女
福岡県
11.16/11.18
2
旅行
会社員
11月16日
80
1
620
S23.1.2
女
福岡県広川町
11.12/11.18
2
旅行・帰省
無職
11月12日
81
1
720
S41.1.10
男
厳原町
11.16/11.17
2
帰省
対馬支庁上県土木駐在所
11月13日
82
1
690
S40.7.29
女
厳原町
11.16/11.21
2
帰省
記入無
11月13日
83
1
808
S51.7.4
女
厳原町
11.15/11.17
2
帰省
無職
11月13日
84
1
624
S29.10.22
女
長崎市
11.16/11.20
2
帰省
記入無
11月14日
85
16
137
S32.8.16
男
上対馬町
11.15/11.17
2
帰省
伊奈郵便局
11月14日
86
1
344
S31.5.4
男
長崎市
11.15/11.18
2
帰省
対馬福祉事務所上県支所
11月15日
87
1
923
S15.2.11
女
福岡県北九州市
11.16/11.18
2
帰省
無職
11月15日
88
1
924
T2.9.18
男
福岡県北九州市
11.16/11.18
2
帰省
無職
11月15日
89
16
109
S15.5.8
男
厳原町
11.16/11.17
2
帰省
伊奈中
11月15日
90
11
149
S38.6.24
女
福岡県福岡市
11.16/11.17
2
帰省
大亜興産
11月15日
91
13
124
S21.10.19
男
勝本町
11.16/11.18
2
帰省
会社役員
11月15日
92
13
126
S50.8.17
男
勝本町
11.16/11.18
2
帰省
記入無
11月15日
93
13
125
S28.12.3
女
勝本町
11.16/11.18
2
帰省
記入無
11月15日
94
10
64
S15.9.15
男
岡山県賀陽町
11.16/11.19
2
帰省
無職
11月16日
(別表3)
番号は、別表1の番号に対応するものである。
番号
選挙人氏名
不在者投票事由、補助執行者に対する説明の有無等
16
油野康弘
油野康弘は、漁業に従事している者である。投票日は山口県に近い漁場でヨコワ(マグロの稚魚)漁に従事する予定になっていた。補助執行者斎藤から理由を聞かれたので、上記予定の説明をしている。なお、宣誓書兼請求書の職業(勤務先)欄に「漁協」と記載したのは誤記であり、正しくは「漁業」である。斎藤は、油野康弘と顔見知りの間柄であったので、その職業を承知していた。
18
豊島若光
19
久和政仁
20
日高幸則
左の3名は、土木・建築業を営む有限会社ライフ工業の従業員であり、不在者投票日及び選挙の当日は、厳原町豆酸で中学校の新築工事に従事していた。上県町から豆酸までは車を使っても片道で3時間半はかかり、選挙の当日に投票することは時間的に不可能である。宣誓書兼請求書に勤務先の記載がないが、補助執行者の質問に対し、「朝早くから豆酸の方の現場に行く」と答え、補助執行者も、上記3名の服装からその職業を理解し、不在者投票を行わせた。
21
阿部節夫
阿部節夫は、ガソリンスタンドを経営している者である。11月16日から同月20日にかけては、プロパンガスの商談の件で、福岡市に出張する予定であった。なお、宣誓書兼請求書の職業(勤務先)欄に記載がないが、補助執行者春日亀は、阿部節夫の職業をよく知っていた。同人は、春日亀に対し、商談で福岡市に出張予定である旨の説明をしている。
22
宮本豊月
宮本豊月は、上県町の町会議員であり、かつ、ガソリンスタンドを経営している者である。11月15日から同月23日にかけて、製薬会社の人との打ち合わせ(商用)のため、横浜市に出張の予定であった。補助執行者の西山らに上記の説明をした。なお、宣誓書兼請求書の職業(勤務先)欄に記載がないが、上県町の議員として長い付き合いの間柄であることから、補助執行者らは宮本豊月の職業をよく知っていた。
23
三宅昭三
三宅昭三は、林業を営んでいる者である。選挙の当日は、所有の山林(上県町佐護)の売買の件で福岡から訪ねて来る買主を対馬空港まで迎えに行き、それから山林を案内し、さらに対馬空港まで送る予定であった。補助執行者春日亀にもその旨説明した。なお、宣誓書兼請求書の三宅昭三の職業(勤務先)欄には無職と記載されているが、これは収入がないためそのように記載したものである。春日亀は三宅昭三の職業が林業であることを知っていた。
24
三宅幸江
夫三宅昭三(番号23)の上記行動に同行する予定であったので、事情は同人と全く同じである。三宅昭三は腎臓が悪く、人工透析を受けていたので、同人が遠方に出かけるときは、体を気づかって、必ず妻の三宅幸江が同行していた。なお、万一、法49条1項1号の「投票区の区域外において職務又は業務に従事中」に該当しないと判断された場合に備えて、同項2号の「やむを得ない用務のため……市町村の区域外に旅行中又は滞在中」に該当するとの主張を予備的に行う。
(別表4)
番号は、別表2の番号に対応するものである。
番号
選挙人氏名
不在者投票事由、補助執行者に対する説明の有無等
2
糸瀬三世子
娘のみく(3歳)が検診で気管に問題があると指摘されたため、福岡市内の大きな病院で診てもらうつもりでいたところ、夫の糸瀬昌彦が今回の町長選挙の期間中に仕事が休みになったことから、夫と娘と一緒に福岡市のこども病院に行くことにした。そこで、11月15日から同月17日にかけて福岡市に旅行する予定を立てた。このことは、補助執行者に説明した。なお、夫の糸瀬昌彦も同様に不在者投票をしているが、被告により有効と判断されている。糸瀬三世子の投票が無効となったのは宣誓書兼請求書に行き先の記入がないためであるが、不在者投票の際に夫と同行し、夫が福岡に行くことを明示し、口頭説明している以上、補助執行者は行き先を承知していた筈である。
4
武田博夫
武田博夫は、脳梗塞により身体障害者となり、身体障害者福祉法による等級は2級である。歩行が困難であるため、車椅子を利用しているほか、会話も不自由である。11月17日、同人の妹武田若子は、入院している母親の付添いがあり、同人の夫の武田俊晃はブリの飼付け(漁法の一つ)のため豊玉町に行く予定になっており、いずれも武田博夫の投票に付き添うことができなかったので、同人は同月13日に妹夫婦の付添いにより不在者投票を行った。したがって、武田博夫の不在者投票は3号事由を具備するものである。なお、武田若子と武田俊晃も同様に不在者投票を行ったが、被告により有効と判断されている。
8
小茂田早苗
小茂田早苗は、福岡市に住む次女(28歳)の縁談の件で、直接同人と話をする必要があったことから、1週間前から計画して、11月15日から同月17日にかけて福岡市の次女方へ旅行することにした。補助執行者の平山とは顔見知りであり、同人に旅行であることは説明したが、その目的が次女の縁談であることまでは説明しなかった。
9
緒方成幸
10
緒方シキノ
11
緒方於花
親子3代である左の3名で美津島町に行くこと及びその目的については、補助執行者において確認している。緒方於花が92歳の高齢で、車椅子を利用していたことを考えるならば、緒方成幸、緒方シキノの両名が随伴しなければ出かけられないことは明白である。このことは、3号事由に該当する。
12
福島勇
福島勇は、身体障害者施設「あゆみ園」に通園している者であるが、その休日である11月17日に厳原の病院に入院していた兄の見舞いに行く予定であった。福島勇は、単独で上記病院に行くことができないため、上県町佐護の大石某に頼んで病院まで同行してもらうことになっていた。このことは、補助執行者に説明した。同人の不在者投票については、予備的に3号事由該当性を主張する。
11
小宮清次
小宮清次は、倉成運送に勤務する者であるが、大型特殊自動車免許を取得するため、11月18日に長崎県大村市の自動車運転免許試験場で試験を受けることとし、同月16日から同月19日まで旅行する予定であった。知り合いの補助執行者春日亀にその旨説明した。
15
佐伯葉子
佐伯葉子は、以前、左足の膝の靱帯を切断したことがあり、そのとき以来、左足が短くなっているため、両足の長さの調整のため足底板を作る必要があった。仕事の予定を終え、福岡に旅行する時間ができたので、足底板を作るため、福岡市に居住する従兄弟に頼んで、福岡市内の斉田整形外科に予約してもらい、11月12日から同月22日にかけて福岡市に旅行した。このことは、補助執行者に説明した。
16
佐伯日登司
11月13日から同月20日までの間、子供又は親戚方の訪問のため、福岡市に妻の佐伯静乃(番号17)と旅行した。補助執行者にはその旨説明した。
17
佐伯静乃
佐伯日登司(番号16)と同じである。
18
小宮為美
平素から福岡へ病院通いをしているもので、11月17日にも病院へ行く必要があった。
19
神宮増子
神宮増子は、病院に行くため不在者投票をしたものであるが、日頃から病弱であり、不在者投票当時は酸素ボンベ類似のものを携帯しなければならないような状況にあった。このことは、3号事由に該当する。
20
小宮喜夫
11月15日から同月18日までの間、福岡市内の病院に行った。このことは、補助執行者に説明した。
21
弘川厳
厳原町に住む弘川厳の娘の具合が悪くなり(近日中に手術を受けるよう医師から言われていた。)、4人の子供(小学校2年生、1年生、保育園の園児、乳児)の世話ができなくなったため、娘から、子供達の世話をしてくれるよう頼まれた。そこで、弘川厳は、11月12日から同月17日にかけて厳原町の娘方に行く予定であった。補助執行者にもその旨説明した。
25
糸瀬千春
11月17日は、友達との約束で福岡市南区に行った。補助執行者にもその旨説明した。
26
山本治之
27
山本敏子
左の両名は夫婦であり、山本敏子の眼科治療のため福岡に行く必要があった。現に、福岡市内の林眼科で受診している。旅行の目的について、山本敏子は、補助執行者に対し、「病院に行く」と説明している。
29
森千百合
夫の森寛士(NOSAI対馬家畜診療所に勤務する獣医)が11月12日から17日にかけて福岡に出張することとなったところ、妻の森千百合も、福岡にいる夫の両親から、孫の顔を見たいので一緒に帰ってきてほしいと頼まれた。そこで、夫の出張に同行して夫の実家に宿泊する予定で航空券も事前に予約した。不在期間は11月12日から同月17日までであった。補助執行者にもその旨説明した。なお、夫もともに不在者投票をしたが、被告により有効と判断されている。
30
長尾荘一
長尾荘一は、社会福祉協議会の委員であることから、11月11日に長崎県松浦市で開催される福祉大会に出席し、その帰りに福岡市博多区に住む次女方の孫に会いに行く約束をして、11月13日から20日にかけて旅行することになった。補助執行者にもその旨の説明をした。
31
二宮優子
高齢で寝たきりの両親を監護しているものであるが、美津島町にいる実兄が遠洋漁業に出漁する前に家庭内のことを相談する目的で同人宅を訪ねるため不在者投票をした。上記家庭の事情は補助執行者も知っていた。
32
川本サク
川本サクは、11月17日には、家を建てたばかりの息子の家を見るためと、子供にも会うため、下県郡美津島町鶏知に旅行する予定であった。なお、川本は高齢で、旅行する場合、付添い(長男の妻)の同行が必要であることや、海上保安庁に勤務する息子がなかなか休みが取れないという事情があったので、不在者投票をしておく必要性が高かったものである。補助執行者にもその旨説明をしている。
34
西山シゲ子
西山シゲ子は、弘法大師を信仰していることから、毎年、高野山に参拝していた。西山シゲ子は、11月8日ころ、急に思い立って高野山参りを計画した。そこで、11月13日から同月18日にかけて、和歌山県の高野山に旅行をすることになった。なお、西山シゲ子は、信仰の関係で、思い立ったときに高野山参りに出かけることにしていたものである。西山シゲ子は、補助執行者西山の母であり、顔見知りの補助執行者に上記の説明を行っている。
35
永留正樹
11月12日から同月22日までの間、病院で、検査を含む治療を受けるため美津島町に行った。補助執行者にはその旨説明した。
36
永留重子
夫の永留正樹(番号35)が上記のとおり美津島町に行く際に、付き添って行くこととなっていた。補助執行者にはその旨説明した。
39
阿比留輝次
阿比留輝次は、当時、自宅を新築する計画を持っていたので、その資材を購入するため、その業者と福岡市で打ち合わせを行う約束をしていた。そこで、11月16日から同月17日にかけて福岡市に旅行する予定であった。補助執行者にはその旨説明した。
40
過能トキヨ
過能トキヨは、特別養護老人ホームに長期入所することが決まっていたが、以前から福岡県八女郡広川町に住む姉に会いたいという希望を持っていた。そこで、一旦入所してしまえば、姉に会う機会がなくなることから、過能トキヨの娘である高原一二三とその夫高原一男は、同人の経営する焼鳥屋「鳥一」の客がなくなる選挙期間を利用して、過能トキヨを広川町の姉のところに連れて行くことにした。そのことは、本件選挙の前から決めていた。なお、過能トキヨは大正9年3月8日生まれの高齢者である。11月12日、過能トキヨの投票に不当な干渉をしようとした者がいたこともあって、同日、高原一男が過能トキヨと高原一二三を車に乗せて仁田支所に行き、過能トキヨと高原一二三が不在者投票をした。不在者投票に際しては、高原一二三が11月12日から同月18日まで広川町の過能トキヨの実家に同人を連れて行く旨を補助執行者である斎藤に説明し、同人もその旨確認している。そして11月12日の不在者投票後、直ちに過能トキヨは厳原に行き、そこで一泊して、翌日広川町に出発した。
41
國分学
対馬農協の椎茸部会の研修が11月13日から同月15日までの日程で宮崎県日向市で開催されるので、そのついでに、福岡に住んでいる娘や息子に会いに行き、さらに、佐賀在住の姉の子供のところで用事を済ませようと考えて、同月12日に不在者投票をした。航空券は、往復とも農協の方で取ってもらった。また、研修に出かける前に、子供たちに、「宮崎の方に行くから帰りに寄るかも知れん」と電話した。補助執行者の斎藤は、上記不在理由を確認している。
42
小宮三重子
半年前から立花英二(番号59)と旅行を計画し、2か月前には航空券の予約をし、勤務先に休暇届も提出していた。
44
西山和喜子
静岡にいる娘の体の具合が悪いので、11月16日から加勢に行く予定で、同月13日に不在者投票をした。静岡に行くことになったのは、その1週間くらい前であった。不在者投票の際、補助執行者には、静岡の娘のところに手伝いに行くと言った。
46
糸瀬政春
11月中旬はヨコワ漁の最盛期で、漁に出るのは早いときで午前3時、遅いときで午前5時で、帰り着くのは早いときで午後6時、遅いときで午後8時から9時になるため、11月13日に不在者投票をした。不在者投票の際、補助執行者には、自分が漁師であること及び選挙の当日は漁に行くこと、漁は、福岡、五島、場合によっては山口県の三島まで行くが、その日その日によって異なり、前もってどことはいえないため、宣誓書兼請求書の「行き先」欄には「福岡市」と書いた。補助執行者からは、五島に行くのではないかという話も出たけれども、五島に行く人もいると答え、自分は福岡に行くという話をした。
48
内野源之允
選挙の当日の1か月くらい前から眼鏡が合わなくなってきたので、福岡市早良区南庄に住んでいる二男に良い眼鏡屋を聞いて、眼鏡を作るために福岡市に行こうと思って、11月13日に不在者投票をした。福岡市に行こうということは1か月くらい前から考えていたが、航空券の予約は不在者投票の1、2日前にした。11月17日に帰って来る予定はなかった。不在者投票に際しては、補助執行者には、福岡に行くから、選挙の当日にいないので、不在者投票をさせてくれと頼んだ。
50
阿比留菊男
娘が長崎市の純心高校の1年生で、11月16日及び同月17日に行われる長崎県のバレーボールの新人戦にアタッカーとして出場するので、妻の阿比留多津代(番号51)とともに応援に行く予定で、同月13日に不在者投票をした。応援に行くことは娘と約束しており、前から行くことに決めていた。不在者投票の際、補助執行者には子供のバレーボールの応援に行く旨説明し、補助執行者からバレーボール大会の日程について質問され、阿比留多津代が、試合は11月16日からあるので、前の日に行く旨答えた。また、宿泊は、長崎市平野町の娘の下宿にすることとしていたので、宣誓書兼請求書の「行き先」欄にはその場所を記載した。補助執行者斎藤もその旨確認している。ただし、阿比留菊男は、不在者投票後、ヨコワが獲れるという話を聞いたので、応援に行くのを急きょ取りやめ、11月17日は出漁した。
51
阿比留多津代
阿比留菊男(番号50)の妻であるが、夫と同じ理由に加えて、娘の部屋の中を整理するため長崎市に行くことにして、11月13日、夫とともに不在者投票をした。不在者投票の際の審査の状況も阿比留菊男と同じである。不在期間については、阿比留菊男は、漁があったら早く帰り、阿比留多津代は1日長く滞在することとしていた。
52
白石常夫
11月16日から同月18日まで、妻の白石文子(番号53)とともに福岡市東区奈多まで孫に会いに行った。補助執行者にはその旨説明した。
53
白石文子
白石常夫(番号52)と同じである。
54
大谷兼二
ひとつには、平成8年が自分たち夫婦の金婚式の年だったので、横浜市戸塚区に住んでいる息子が、そのお祝いとして、大谷兼二夫婦を鬼怒川温泉に招待してくれたので、11月15日から同月20日までの日程で、同温泉に行くこととした。もうひとつの理由は、その息子が家を建てるので、住宅ローンの連帯保証人になる手続をするという目的もあり、平成8年11月のこの時期は、息子の方から指定してきた。なお、実際、11月18日に息子とともに横浜の銀行にその手続に行った。航空券は、息子が送ってくれた。以上の理由で、11月14日、妻の大谷キチノとともに不在者投票を行った。大谷兼二は上県町役場の宿直職員で、補助執行者とも懇意にしており、補助執行者に対し、「子供が横浜にいるから長期間行ってきます。ちょっと休みますけど、よろしくお願いしときます。」と説明している。なお、宿直職員は、正規の職員でないため、宣誓書兼請求書の「職業(勤務先)」欄には「無職」と記入している。
55
大谷キチノ
大谷兼二(番号54)の妻であり、その内容は夫と同様である。
56
吉田善英
57
吉田志保子
58
吉田知絵里
吉田善英と吉田志保子は夫婦であり、吉田知絵里はその子であるが、吉田夫婦の長男の憲功(北九州市在住)の子供が七五三祝いのため、3人で長男宅を訪ねる予定であった。補助執行者にもその旨説明している。
59
立花英二
2か月前から小宮三重子(番号42)と福岡へ買い物に行くことを約束し、航空券を予約し、勤務先に休暇届を提出していた。補助執行者には、「前から決めていた旅行で、彼女と二人で行く」と説明している。
60
松村まゆみ
子供が佐世保市の九州文化学園高校のバレーボール部の選手をしており、11月16日及び同月17日に長崎市で開催されるバレーボールの県大会に出場するので、その応援のため、同月16日から同月19日まで長崎市に行くことにし、同月14日仁田支所で不在者投票をした。同校は決勝戦まで進出することが予想されたので、決勝戦まで応援する日程を組み、事前に航空券の予約をし、実際に同校は優勝した。不在者投票の際、補助執行者から不在の理由を尋ねられたので、バレーボールの応援に行くと答えた。応援に行くことは前から決めていたことであり、日程を変更することはできなかった。
63
阿比留美智代
精神薄弱者更生施設である社会福祉法人梅仁会対馬学園の施設長であり、対馬学園の入所者の大阪在住の保護者と福岡市内のホテルで面談するため、11月16日から同月18日まで2泊3日の日程で福岡に行くことになったので、同月14日、仁田支所で不在者投票をした。その保護者と面談する約束は事前にしており、実際前泊し、同月17日に面談して、同月18日に帰って来た。不在者投票の際、補助執行者から、不在者投票の理由について質問があったが、精神薄弱者更生施設の仕事は、入所者やその家族のプライバシーに関わる重大な事項を扱っており、福岡に出張することを他人に知られたくなかったので、福岡に旅行に行くと答えた。また、補助執行者から、どこに泊まるのか質問されたが、その時点では宿泊場所を決めていなかったので、とりあえず「福岡県」と答えた。この不在理由は、1号事由に該当する。
64
内山等
狭心症でMRI検査を受けるために長崎市民病院に行き、そのついでに4、5年会っていない長崎市在住の長男の家族に会う目的で11月16日から同月20日までの予定で長崎市に行くために、同月15日に不在者投票をした。以前から狭心症で病院に通っていたが、長崎市民病院に行くことは、不在者投票をする2、3日前に自宅で急に発作が起こったので思い立った。上対馬病院の医師からは、MRIの検査をするには、3、4日間は病院に入院していなければならないだろうと言われていた。不在者投票の際、補助執行者には、病院に検査に行くので不在者投票をさせてくれという説明をした。
66
阿比留富生
11月7日に8年ぶりの孫(大阪市平野区に住む長男の子)が生まれ、同月15日に退院したので、孫の名付けをする目的で同月16日から同月20日まで長男のところに行くために、同月15日、妻の阿比留菊代(番号67)とともに不在者投票をした。内孫は初めてであり、長男から名付けの親になってほしいということで呼ばれていた。不在者投票に際して、阿比留菊代が同席する場で、8年ぶりに孫ができたので、名付けのために大阪に行くから不在者投票をするという説明を補助執行者にした。
67
阿比留菊代
阿比留菊代は、阿比留富生(番号66)の妻であり、内容は同人と同様である。
69
田﨑行憲
70
田﨑祝子
左記両名は夫婦で、福岡県筑紫野市在住の長女の子の七五三の祝いに行く予定であった。宣誓書兼請求書の行き先欄記載の場所は長女の住所である。田﨑行憲は、当時、中学校の校長であり、休日でないと動けなかったため、11月17日が休日ということで、この旅行を1か月前から予定していた。補助執行者西山には、七五三の祝いに行くという説明をしている。
73
鳥居初音
74
折田耕一
2人で福岡市内へ旅行を予定していた。両名は同棲中であったが、旅行の内容については、プライバシーへの配慮から、説明を求めることは不可能である。
75
前間正照
就職の面接のため長崎市に行く用事があった。たまたま、母の前間秀子(番号76)も二男の学校のことで長崎市に行く必要があり、2人で出かけた。
76
前間秀子
長崎市内に下宿している高校生の二男について、学業のことで学校の指導を受ける用事があり、併せて二男の下宿を探す目的もあった。子供のことで学校から連絡があれば、親として飛んで行くのは当然である。
80
高原一二三
叔母の過能トキヨ(番号40)の老人ホーム入所が決定し、入所前に福岡県八女郡広川町在住の姉に会いに行くことにしていた。過能トキヨは当時76歳の高齢であり、高原一二三の同行は不可欠である。
81
井村保雄
11月17日には美津島町で祖母の法事が予定されていたため、夫婦で参列する予定であった。
82
阿比留邦子
実家に用事があったため、厳原町宮谷(上県町から車で2時間)に11月16日から同月21日まで行った。補助執行者にはその旨説明した。
85
畑島正博
畑島正博は、週末には必ず実家に帰省し、老齢の両親の面倒をみていた。いったん帰省すると、不慮の出来事もあり得、11月17日に投票所へ出かけることが不可能となるおそれがあったため、不在者投票を行った。
86
井手敦郎
井手敦郎は単身赴任で上県町に在住している者であるが、妻子は長崎市内におり、妻がパートに出て働いているため、かねてから週末は帰省し、子供の世話をすることにしていた。11月17日には、長崎市内の風頭公園にある坂本竜馬の銅像磨きの行事も予定されていた。
87
武田市子
88
武田穰
武田市子は北九州市若松区にいる長女の離婚問題で長女宅へ行く必要があった。所在不明であった長女の夫とやっと連絡が取れたもので、変更のできない急用であった。そして、武田市子は、老齢の義父である武田穰を残して行くことができないため、同人を同行した。武田市子の夫は上県町役場の職員であり、補助執行者は武田市子が北九州市若松区から嫁に来ていることを知っており、帰省に間違いないと判断した。
90
福田朋美
亡夫の両親との間のもめ事を抱えていたものであるが、平成8年10月には借家の明渡しを要求されていたことも重なり、福岡市の実家に戻り実親に相談する予定を立てていた。そのために休暇届も提出していた。不在者投票に立会った町職員は、福田朋美がかねてから家庭の事情を相談していた者である。
91
三槻孝彦
92
三槻太
93
三槻ナルエ
三槻孝彦と三槻ナルエは夫婦であり、三槻太はその子である。三槻孝彦は壱岐郡勝本町に実家があるが、同町にいる兄嫁藤田清乃が11月11日に死亡し、同月16日に葬儀、同月17日に初七日の法事があったため、同日の投票はできなかった。補助執行者もその事実を知っていたし、左の三名からの説明も行われている。
94
片倉和彦
11月16日から同月19日まで岡山県にある実家に帰省した。補助執行者にはその旨説明した。
両親とは自動車で約四〇分の距離に居住して、伊奈郵便局に勤務していること、両親は心臓が悪く、介護を要するというほどではないが、毎週末に畑島正博が帰省して来るのを楽しみにしていること、同人は、特に用事がない限り、毎週土曜日と日曜日には帰省することとしていたこと、同人は、帰省した場合、網代で何か用事ができると、日曜日のうちに戻ってきて投票できなくなるおそれがあったので不在者投票用紙等の交付を請求したこと、補助執行者は、畑島正博から、不在者投票事由は帰省であり、毎週土日は帰省している旨の説明を受けたことが認められる。
右認定事実に照らすと、畑島正博が毎週親元へ帰省するのには無理からぬものがあるところ、帰省先で用事ができて投票時間内に戻れなくなるおそれがあることも十分あり得るところであるから、儀礼等の理由から社会通念上必要な用務のために旅行する場合に準じるものとして、同人の不在者投票は二号事由を具備するというべきである。そして、補助執行者は、右宣誓書兼請求書の記載及び畑島正博の口頭説明から、二号事由に該当することを認識判断したものということができるから、不在者投票事由について審査義務を尽くしたこととなる。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はないものというべきである。
(五一) 番号86について
乙第一一号証の八六、証人井出敦郎の証言によれば、井出敦郎(番号86)は一一月一五日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一五日から一一月一八日まで」、行き先欄には「長崎県長崎市古賀町一四〇〇―四八」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「帰省」に○印が付されていること、同人は、当時、対馬福祉事務所上県支所に単身赴任しており、行き先欄記載の自宅に帰省するため、不在者投票用紙等の交付を請求したこと、同人の妻はパートで働いており、休日の方が忙しいので、子供の世話をするため、なるべく土日は帰省するようにしていたことが認められる。
右の不在理由は、やむを得ない用務により投票区域外にあるべきものとして、二号事由に該当するものというべきである。しかし、右宣誓書兼請求書の記載からは、「やむを得ない用務」の要件に当たるか否か判断することは不可能であるところ、補助執行者において、宣誓書兼請求書の記載以上に、帰省の具体的目的等、右要件について質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者としては、右の記載のみから不在者投票事由ありと速断して、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ず、不在者投票事由について審査義務を尽くしていないというのほかはない。
したがって、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(五二) 番号87について
乙第一一号証の八七、証人武田市子、同春日亀隆義の各証言によれば、武田市子(番号87)は一一月一五日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一八日まで」、行き先欄には「福岡県北九州市若松区白山二丁目」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「帰省」に○印が付されていること、同人は、長女の離婚問題と借金問題で北九州市若松区に行く必要があったが、長女の夫とは同月一四日になってやっと連絡がとれ、長女の夫が同月一六日か一七日だったら若松区に来ることができるというので、急きょ行くこととなったこと、若松区には武田市子の親戚がおり、後記(五三)のとおり連れて行く武田穰(番号88)を預ける予定にしていたので、右のとおり「帰省」に○印を付したこと、補助執行者春日亀は、武田市子が北九州市の出身であることは知っていたところ、同人から、単に若松の娘のところに行くとだけ説明を受けたが、それ以上の詳しい事情は尋ねなかったこと、武田市子としても、娘の離婚問題を知られたくなかったので、春日亀にはそれ以上の説明をしなかったことが認められる。
右認定事実に照らすと、武田市子は、選挙の当日はやむを得ない用務のため上県町外にあるべきこととなる。しかし、補助執行者は、右旅行の目的等について具体的に明らかにさせようとすることなく、右宣誓書兼請求書の記載及び単に若松の娘のところに行くとの説明のみで、漫然と不在者投票をさせたものであるから、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ない。
したがって、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(五三) 番号88について
甲第一五証号、乙第一一号証の八八、証人武田市子、同春日亀隆義の各証言によれば、武田穰(番号88)は一一月一五日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書には、武田市子(番号87)と同様の記載がなされていること、武田穰は、武田市子の義父であるところ、同人が右(五二)認定のような理由で行き先欄記載の地に行くと、自分の世話をする者がいなくなるので、武田市子の旅行に同道することとして、不在者投票用紙等の交付を請求したこと、補助執行者春日亀は、不在理由については、武田穰の不在者投票に同行した武田市子から、同人の不在者投票用紙等の交付請求と同じ機会に、単に若松の娘のところに行くとだけ説明を受けたことが認められる。
そうすると、武田市子の場合と同様、補助執行者は不在者投票事由について審査義務を尽くしておらず、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があるといわざるをえない。
(五四) 番号90について
乙第一一号証の九〇の一、証人福田朋美の証言によれば、福田朋美(番号90)は一一月一五日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間には「一一月一六日から一七日まで」、行き先欄には「福岡県福岡市東区」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「帰省」に○印が付されていること、同人は、三年前に死亡した夫の実家から籍を離れるよう要求され、また、借家の大家からは明渡しを要求されていたため、実家に帰って相談する必要があったこと、福田朋美は大亜興産というガソリンスタンドに勤務しているところ、従業員は同人を入れて二名しかいないため、平日には休みがとれず、日曜日に実家のある福岡市東区に帰省することととしたこと、補助執行者は、何故福岡に行くのかと質問したところ、福田朋美から、帰省である旨回答を得たものの、それ以上の具体的な説明は受けていないこと、福田朋美は、不在者投票請求の場にいた町職員の川本某には、従前から右の離籍の件で相談しており、同人は不在理由について分かっているだろうと思っていたことが認められる。
右認定事実に照らすと、福田朋美は、選挙の当日はやむを得ない用務のため上県町外にあるべきこととなる。しかし、補助執行者は、帰省の目的等について何ら具体的に明らかにさせようとしておらず、乙第一三号証によれば、町職員の川本某が補助執行者でないことは明らかであるから、同人が福田朋美の離籍問題について知っていたとしても、このことから直ちに補助執行者が福田朋美の帰省の目的について認識していたということはできない。したがって、補助執行者は、右宣誓書兼請求書の記載及び単に帰省するとの福田朋美の説明のみで、漫然と不在者投票をさせたものであり、不在者投票事由について審査義務を尽くしていないものといわざるを得ない。
したがって、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(五五) 番号91ないし93について
乙第一一号証の九一ないし九三号の各一、証人三槻孝彦、同三槻ナルエ、同三槻太、同斎藤昌敏、同西山岩夫の各証言によれば、三槻孝彦(番号91、本件の原告でもある。)、三槻太(番号92)及び三槻ナルエ(番号93)はいずれも一一月一五日に不在者投票をしたこと、右三名の各宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一八日まで」、行き先欄には「長崎県壱岐郡勝本町」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「帰省」に○印が付されていること、三槻孝彦は、一一月一一日に兄嫁である藤田清乃が死亡し、行き先欄記載の場所で同月一六日に葬儀が、翌日一七日に初七日の法要が執り行われることとなったため、妻の三槻ナルエ及び子の三槻太とともに参列することとしたこと、初七日の法要は夕方までかかるが、壱岐からの船便は昼間と夜しかないため、投票時間内に帰着できず、不在者投票用紙等の交付を請求することとしたこと、補助執行者西山及び同斎藤は、右三名から、兄嫁が死亡したので葬儀に行く旨説明を受け、同月一七日の投票時間内に帰って来られないのかと質問したところ、葬儀の翌日に初七日をするので帰れない旨回答を受けたことが認められる。
右の不在理由は、儀礼上の理由から社会通念上必要な用務のための旅行によるものであり、かつ、選挙の当日以外に右旅行の日程を変更することは著しく困難であるから、右三名の不在者投票が二号事由を具備することは明らかである。そして、補助執行者は、宣誓書兼請求書の記載及び右三名による口頭説明を総合して、右事由を具備するものと判断したということができるから、不在者投票事由についての審査義務を尽くしたものである。
したがって、右不在者投票について町選管の委員長による管理執行手続に違法はない。
(五六) 番号94について
乙第一一号証の九四、証人斎藤昌敏の証言によれば、片倉和治(番号94)は一一月一六日に不在者投票をしたこと、同人の宣誓書兼請求書の不在期間欄には「一一月一六日から一一月一九日まで」、行き先欄には「岡山県上房郡賀陽町」とそれぞれ記載され、不在理由欄には「2」の「帰省」に○印が付されていること、補助執行者斎藤は、片倉和治から、親に会うため、選挙の当日どうしても行き先欄所在の実家へ帰省しなければならない用事がある旨の説明を受けたことが認められる。
右認定事実に照らすと、片倉和治の帰省はやむを得ない用務によるものであることがうかがわれなくはないが、右宣誓書兼請求書の帰省及び同人による口頭説明のみでは、同人が同月一七日に帰省しなければならない具体的理由が明らかでなく、「やむを得ない用務」の要件に該当するか否かの判断は困難である。そして、補助執行者においてその点等につき質問したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、右のような宣誓書兼請求書の記載及び口頭説明のみで漫然と不在者投票をさせたものと推定され、不在者投票事由について審査義務を尽くさなかったものといわざるを得ない。
したがって、町選管の委員長による右不在者投票の管理執行手続には違法があることとなる。
(五七) その余の番号の不在者投票について
乙第一一号証の一、五、一三、二二ないし二四、二八、三三、三七、三八、四三、四五、四七、四九、六一、六二、六五、六八及び七一の各一、七二、七七、七八の一、七九、八四、八九の一によれば、別表2のうち番号1、5、13、22ないし24、28、33、37、38、43、45、47、49、61、62、65、68、71、72、77ないし79、84、89の各不在者投票における宣誓書兼請求書の不在理由欄には、番号22について「2」のうち「旅行」に○印が付けられ、「親せきに合いに行くため」と付記されているほかは、いずれも、単に「2」のうち「見舞い」、「旅行」、「帰省」又は「その他」に○印が付けられているだけであることが認められる。
右の各記載のみからは、右の不在理由について、儀礼等の理由から社会通念上必要な用務のための旅行であるか否か、又は選挙の当日以外に日程を変更することが著しく困難である等の事情があるか否か全く不明である。そして、補助執行者において、右各不在者投票の投票用紙等の交付を請求した選挙人に対し、右要件について具体的に口頭説明を求める等して審査したことを認めるに足りる証拠はないから、補助執行者は、不在者投票事由について明らかにすることなく、漫然と不在者投票をさせたものと推認せざるを得ない。
そうすると、右のいずれについても、不在者投票事由について審査義務は尽くされておらず、町選管の委員長による右各不在者投票の管理執行手続には違法があるといわざるを得ない。
(五八) まとめ
そうすると、別表2関係では、六一件の不在者投票について、管理執行手続に違法があることとなる。
四 結論
以上によれば、本件選挙において管理執行手続に違法のある不在者投票は合計六四件であり、その票数は、当選人である原告惣島と落選人である廣田貞勝の間の得票数の差である七〇票を下回る。そうすると、不在者投票の管理執行手続に関する右違法が本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるということはできない。
よって、本件選挙を無効とした原裁決は違法として取り消されるべきであるから、原告らの請求をいずれも認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六六条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官山口忍 裁判官西謙二 裁判官原啓一郎)